大手企業の労務と中小企業の労務

「語れる労務」と「語れない労務」

人には自分の人生、家庭などにおいて「語れること」と「語れないこと」がある。企業も同様だ。
大手企業の労務は「語れる労務」である。中小企業の労務は「語れない労務」が多い。

語れる労務とは、人的資本開示、SDGs、コンプライアンス、タレントマネジメント、エンゲージメント、優秀な新卒の採用、独自の人材育成の仕組み、一気に●万円の賃上げ(ベースアップ)などである。本やセミナーにしやすい、語りやすいテーマだ。

一方で、「語れない労務」もある。労務というより、深刻な経営問題かもしれない。
中小企業は、外部からはわからない「語れない労務」、「語れない物語」をもっていることが多い。

「語れない労務」を語ってみると

思いつくままに「語れない労務」を語ってみると、

・人事評価制度を導入しても、そもそも評価する人材がいない。課長といっても名ばかり。

・実は職場のガンのような社員がいて辞めてもらいたいが、この人がいないと仕事がまわらない。

・荷主への値上げが通らず、99%の中小運送業が解決できない?未払い残業問題。

・人が足らなすぎて、99%の中小建設業の解決できない?2024年問題。

・新卒採用は継続しているが、意識・レベルが低すぎる(大手・中堅の残りカスと言った社長までいた)。

・職場でダブル不倫をしているので、2人とも辞めさせたい。

・3人の幹部突然退職、別会社をつくって独立して売上を大幅に奪われた。

・課長以上は親会社の人ばかり。過去の経緯から、親会社にみんな恨みをもっている。

・何時までたっても辞めない60代・70代の、会長・社長のお気に入りの働かない社員がいる。

・社長(兄)、専務(弟)で仲が悪く、会社が二分されている。

・絶対に辞められては困る、替わりのいないキーマンが突然、退職を申し出てきた。

・社長がパワハラをして次々に人がやめる。・・・etc

全部、実際の相談。まだまだ、「語れない労務」を挙げればきりがない。経済合理性だけでは割り切れない、関係者の感情の問題がまとわりついている。

「不人気」「3K」「低労働生産性」「採用・定着難」「場当たり対応」「同族のシガラミ」「事前対応不足」のいずれかが、「語れない労務」の背景にある。

実際のケーススタディー、特に失敗談こそ重要

中小企業は、どこへ言ってもペケだった人、とてもクセのある人、就職氷河期世代・引きこもりなどによる未就業者、大手・中堅企業をリストラされた中高年、高齢者、女性、障がい者などの弱者の「受け皿」になっている。「半端なものどうしが肩を寄せ合えばなんとかやっていけるものだ」と故・本田宗一郎氏も言っている。私も大手企業を脱落した半端なクセ者のひとりだから、とてもありがたいお言葉だ。

人も企業も語れることを語り、語ればかっこいいことを語る。語れないことは語らないに過ぎない。ピカピカに輝いて見える会社ほど、それに呼応した暗い影がある。つまり、深刻な語れないことがあるのだ。

だから、何も自社を恥ずかしく思う必要は全くない。表に出てくるのは「語れる労務」の話ばかり。語れないことは表に出ない。ただそれだけだ。私も、私の会社も恥ずかしいことだらけだ。

成功した会社の話、「●●一大切にしたい会社」「日本経営●●賞受賞」の社長の講演、コンサルタントの会社を成長させる人事改革のセミナー。どれも「ご説ごもっともな話」ではあるが、意外と多くの中小企業には参考にならないものだ。私は、実際の現場で経営者と体当たりで一緒に掴み取った中小企業の失敗談とその具体策というケーススタディーに信頼をおいている。

中小企業の人事労務課題は、構造が単純で病理学的に因果関係がわかりやすく、処方箋は簡単とも言える。だから、経営者がその気になれば一気に突然、快方に向かう。

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