賃上げ時代の中小企業の賞与改革

賃上げ機運継続

2023年、2024年と賃金が上がりつつあります。特に2022年との比較で言えば、中小企業においても、経営者は追い詰められたように賃上げへのプレッシャーを感じておられます。いま喫緊の課題は人手不足、特に若手人材の確保定着です。そのためには、在籍者の賃上げを行い、初任給を底上げすることが急務なのです。

労働生産性の向上が伴わなければ賃上げは続かない

しかし、賃上げ余力がある中小企業は実は少ないです。去年、今年、来年あたりはなんとかなるかもしれませんが、連合が結果を報告している毎年4%程度の賃上げなど、続くはずもありません。賃金相場が上がるので在籍者の賃金を上げる、社員の生活を鑑みて物価にあわせて賃金を上げる、ご説ごもっともな理屈です。しかし、労働生産性の向上がなければ、そんな経営は破綻します。

賞与がジリジリ減っていく?

若手の賃上げの犠牲になるのは、中高年です。でも、中高年の所定内賃金も下がることはありません。60歳再雇用時に賃金減額をするのが通例ですが、過去の常識であった年金併用型と比べて、その減額幅もだんだん小さくなっている現状があります。年金は65歳からしかもらえないからです。

省力化投資、新商品開発、業務改善、料金見直しといった経営努力が、昨今の賃上げに追いつかない中小企業が大半です。そして、賃上げ余力がなくなると、減らせるところは賞与しかありません。初任給、賃金を上げないわけにはいかない世情なので、賞与を減額していかざるを得ません。現実にまだ極端に減らす会社はないですが、徐々に、かつ確実に、賞与や一時金から所定内賃金への原資移転が進んでいるのです。

賃金は上がっているが年収は変わっていないではないか!

社員から早晩、こんな声が聞こえそうです。

「確かにベースアップをしてもらったがその分、賞与が減っているではないか」
「若い人の年収は上がっているが、私たちベテランの年収は上がっていないではないか」

経営者からすれば、賞与は業績に従い支給するものです。月給を上げて労働生産性が上がらなければ、賞与が減ることは当然です。年収は変わっていないのでいいではないかという主張があるかもしれませんが、社員は月給アップ、賞与アップ、年収アップを前提に話をするのです。

赤字でも賞与が払われる現実

中小企業の賞与は、業績連動というより、変動がありえる調整弁としての準固定給のようなものです。つまり、社員にとっては当然もらえるものなのです。平時は12ヶ月分の給与+3ヶ月分の賞与であったものが、業績悪化に見舞われるとこの賞与が半分になることはあっても、ゼロになることはまずありません。賞与が年間1.0~1.5ヶ月分程度の会社は、赤字又はトントンの会社とみます。

業績連動の賞与の仕組みを入れる

日本政府と経団連ムラの人たちがワンチームになって、賃上げ機運を国策で高めています。報道される中小企業の賃上げ情報も、過半数労組がある中堅企業を中心した中小企業の情報のみです。でも、この雰囲気、この賃上げの流れ、つまりヨソも上げたらウチも上げないと、、ということになれば、年収調整弁としての賞与の原資がどんどん減っていくように思います。そうすると社員が「去年より賞与が少ない」と文句を言うことになります。

これを解消するには、業績連動の賞与ルールをつくることが考えられます。たとえば、(賞与支給前)営業利益(又は経常利益)の50%を賞与枠として設定し、その範囲で賞与を払います。賃上げをしても、思うように労働生産性が上がらなければ、または不用意に人員数を増やせば、賞与が業績連動で減ります。逆に会社が儲かれば、青天井に賞与が支給されることになります。

私は未来にわたって、夏冬の賞与という、日本古来の盆暮れ正月の里帰り、餅代という習慣がどこまで続くのだろうか、とふと疑問に思うことがあります。賃金を毎年上げる前提で、経営者として本当にやりたいのは、決算月に賞与ルールを決めて利益連動で払うことです。これが最も経済合理性に叶うからです。つまり、海外のように、賞与があるとしたら年1回とするのが妥当なのです。この賃上げ圧力が10年間継続すれば、経営者が意図するかしないかにかかわらず、労使の対立を避けるために、業績数値をオープンにした業績連動賞与にせざるを得ないのではないかと予想します。

後は、個人の分配のメリハリの問題です。「業績が悪く、賞与に差をつけることができないので、全員10万円とする」という意向を聞くことがあります。私は反対です。業績が悪いときほど、会社に貢献している人とそうでない人が鮮明になります。このようなときほど、1万円~20万円程度まで差をつけるべきなのです。

とにかく結果は出す

もっとも、賞与を下げるために業績連動賞与にするのではありません。全社一丸となって労働生産性の向上に向けて邁進し、経営成果をあげて賞与をたたき出すためです。結果として賞与が極小又はゼロになったら経営として失敗なのです。社員からは文句がヤマのように出て、「会社は人件費下げるために導入した」と言われるのがオチです。ですから、結果は必ず出さなければならないのです。やるしかない、経営者が追い詰められた状況であることは変わりません。

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