中小企業は「賃金」から目標をきめなさい
(賃金は最もおそろしい費用、でも最も予測できる費用)
社長「先生、石破さんのときは、最低賃金1,500円は2020年代に実現でした。高市さんになって、最低賃金1,500円は2030年代前半に先送りされたのは影響ありますか」
福田「2~3年遅くなる感はありますが、残念ながら大勢に影響はありませんよ」
社長「そうですか・・。では、一昨年、先生と立てた計画通りにいきます」
ニュースや新聞を見た社長との間で、最近よく交わされる会話である。確かに、スケジュールは緩和されたように見える。しかし、「今年も賃上げが必要か」「採用の提示額はどうするか」と頭を悩ませ、多くの社員の生活を背負う経営者にとって、その程度の先送りが何の気休めにもならないことは明白である。
そんな葛藤を抱える社長に、私はこのように伝えている。「売上ではなく「賃金」から目標を決めてください」。
多くの企業は、「売上目標」から経費を引き、残ったパイを「賃金」に割り振る。しかし、これからの時代、この思考順序では確実に会社は行き詰まる。なぜなら、賃金こそが「最もおそろしい費用」であり、同時に「最も高い信頼度で予測できる数字」だからである。売上は外部環境に左右されるが、賃金は違う。最低賃金の引き上げ幅、社会保険料の負担増、社員の年齢構成。昨今、60歳再雇用でもそれほど減額もできなくなった。人員増・減をふまえ、これらは最低でも5年先まで極めて正確にシミュレーションできる。
(「定期昇給」と「ベースアップ」を分けて検証する)
ここで一つ、重要な視点がある。中小企業の実務において、定期昇給とベースアップを厳密に区別する必要は通常ない。しかし、5年先のシミュレーションを行う上では、この両者を「定期昇給相当分」と「ベースアップ相当分」に分けて検証する必要がある。「社員の年齢が上がることで自然に発生する定期昇給相当分」と、「物価高や最低賃金高騰に対応するために会社の底上げとして支払うベースアップ相当分」。これらを分けて検証しなければ、未来の資金繰り予測を大きく見誤ることになる。そして、向こう10年間の賃金管理の焦点は、定期昇給ではなく、ベースアップにあることは、多くの経営者が感じていることであろう。「ベースアップは予想できない」と反論されるが、前提をおけば十分シミュレーション可能だ。
(賃上げ試算で自社の最適規模がみえる)
今後急騰する賃金をまかない、会社を存続させるためには、「売上や粗利、その他固定費が最低でもどうなっていなければならないか」を5年先(最低賃金1,500円に到達する)まで作ってみることが必須である。そのシミュレーション結果を見れば、今のビジネスモデルの延長線上のままでは、数年であっという間に赤字に転落してしまうという冷酷な現実に直面する会社もある。特にパートタイマーを正社員の何倍も抱える企業だ。だが、それでいいのだ。その現実を知ることこそが、次の一手の始まりとなる。気合いや根性で売上を少し伸ばすだけでは到底追いつかない。いやでも経営を革新し、人を減らし、事業そのものを組み立てなおさなければならないことがわかるはずだ。痛みを伴う改革の「断行」は、社長にとって最も気が重い決断である。賃金は、会社の未来への覚悟を映す鏡である。まずは5年先、社員にいくら払わなければならないのか。そこから、本当の目標を打ち立てるべきである。
昨今は本当に便利な時代になった。シミュレーションの前提とエクセル賃金シートをAIに入力すれば、数回の問答を経て見事なシミュレーションができる。そうすると、現状のビジネスモデルにおける自社の最適規模・人員が見えるかもしれない。国が旗振りをする「売上100億円」を目指すといってもその分、比例的に増えた賃金が払えない、人が採用できないと何の意味もないのだ。
私も上記に悩み続ける中小企業経営者の一人ですが。