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布陣

それでも、やっぱりその人事評価制度はやめなさい

黒子の手記

(今さらやめるわけにはいかないんです・・)

A社長「制度設計に丸1年を費やし、社内にプロジェクトチームまで立ち上げて導入した制度でした。でも、いま現場での不協和音がすごいんです」

<福田、制度概要が印されたパワーポイント説明資料をパラバラめくる>

福田「これは〇〇コンサルタントがもっている標準パッケージがそのまま導入されていますね」

A社長「やっぱりそうですよね。コンサルタントは、かなり当社に寄り添ってアレンジしていると言っていましたけど」

A社長「社員の納得を重視して、膨大な時間を目標設定と評価面談に費やしました。しかし、それだけやっても社員の納得性が高まっているとは到底思えない。うちの会社ではどうしても無理だと思うんです・・・」

福田「廃止されますか?」

A社長「いやー、この5月に退任した副社長の肝いりの制度でした。実務を取り仕切る常務は導入に最後まで猛反対してましたが・・・。それを押し切って経営改革として大上段にぶち上げので、ここでやめにくいですね・・・。福田先生、どうしたらいいですか。助けてもらえませんか」

業界では評判の技術力のある製造業A社(社員340名)のA社長との会話のやりとりだ。社長2年目の後継社長である。

終業後の静まり返ったオフィス。デスクに山積みになった期末の評価シートを前に、力なく肩を落とす若きリーダーから、このような悲痛な相談を受けることが少なくない。

5年ほど前に「社員をやる気にさせたければ その人事給与制度をやめなさい」(スタンダーズ社刊)という本をだした。この本をきっかけに全国から、それも「立派な会社」の相談をたくさん受けることになった。「人事給与制度はテキトーがいい」というコンセプトであったにもかかわらず、意外と刺さったのは、優良な中堅企業のオーナー社長に対してであったのは驚きだった。

多くの会社では、外部のコンサルティング会社を入れ、幹部を巻き込んだプロジェクトチームを結成して、妥協のない「客観的な絶対評価」の仕組みを作り上げた。客観的な絶対評価の主役は「目標管理制度」である。そして、必死で運用してみたが、うまくいかないのだ。

(費やした膨大な時間と、届かない社員の納得感)

いざ期末面談の時期になると、評価する側の管理職は、本来の業務を圧迫されて疲弊しきっていく。どれだけ基準を細かくし、面談の時間を重ねても、現場の不満は収まらず、結局のところ、最終調整という名の“鉛筆なめなめ”をする、または制度の正当性を重視しておかしいと思いながらも、実質的な不公平を許容するかのどちらかとなる。

たまらず、その窮状を若い担当コンサルタントに伝えて相談しても、返ってくるのはマニュアル通りの四角四面の答えだけ。現場の泥臭い現実に寄り添うような言葉は、何一つなかったという。なぜ、そこまでエネルギーと時間を注ぎ込んだ社長の努力が報われなかったのか。実は、同じような苦しみを抱えている経営者は、決して少なくない。

(大手企業でも「完全な絶対評価」はわずか3割という現実)

ここには、多くの中堅・中小企業が陥る大きな落とし穴がある。

 中小企業において客観的な絶対評価基準によって処遇を決めるなど、

                経営のケの字も知らない人が語る幻である」

これが、組織の歪みや制度の不協和に向き合ってきた私が見た、痛烈な事実だ。その証拠に、資金も人材も豊富な大手企業の実態を見てみてほしい。内閣官房などの公的な検討会でも参照される民間調査データによると、現在の日本企業における評価方式の導入割合は次のようになっている。

(1)ハイブリット型(一次:絶対評価二次:相対評価)

→導入割合50%程度

→一次評価は個人の目標達成度で行うが、最終的な賞与・昇給決定時には予算枠に合わせて相対評価で調整する。

(2)完全相対評価

→導入割合20%~30

→最初から「S評価は上位10%」と枠を固定する、あるいは独自の基準を設けている形式。

(3)完全絶対評価

→導入割合30%前後

→目標達成度のみで完結。社員の納得感は高まりやすいが、原資のコントロールが難しくなる。また、管理職に高度な目標設定・修正指導スキルが必要。

お分かりいただけるだろうか。日本企業の多くが、最終的には「相対評価」で調整するハイブリッド型を採用しているのがリアルな実態なのだ。なぜハイブリッド型が半数以上を占めるのか。それは「社員の育成」と「人件費のコントロール」を両立させるという、切実な大人の事情があるからだ。一次評価の「絶対評価」は、面談でのフィードバックや人材育成には非常に有効である。しかし、絶対評価を最終決定まで貫き「全員が最高評価」となれば、あらかじめ決まっている原資(予算)をオーバーしてしまう。だからこそ、最終段階では全社で相対的に順位をつけ、予算内に収める調整が行われている。

大企業でさえ不可能なことを、中小企業が真っ正面からやろうとすれば、現場が膨大な手間に忙殺され、行き詰まるのは当然と言える。建て前は絶対評価を貫くという会社も、大人の事情での「調整に調整を重ねている」というのが25年間、企業の裏側を見てきた現実の姿である。

(求める行動や数値目標は否定しない、だが処遇に直結させるな)

誤解のないように言っておくが、社員への「役割期待」や「求める行動」はあいまいで良いわけではない。明確な具体性は必要であり、客観的に数値で評価することや「数値目標」を設けること自体を否定するものではない。私が強く警鐘を鳴らしたいのは、「どんなに精緻な客観的評価を作っても、それをダイレクトに処遇へ結びつけるべきではない」ということだ。泥臭く会社を支える社員たちの働きを点数化し、給与計算の数式に放り込むことなど、どだい無理な話なのだ。運用コストが跳ね上がるだけで納得性は高まらず、制度は必ず形骸化する。だからこそ、思い切ってこう割り切るべきだ。「評価とは、究極的には相対評価でしかありえない」と。

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