年収750万円「53歳幹部候補」が期待ハズレだったときの対処方法
「今度入った営業本部長なんやけど……現場ですっかり浮いてますわ。」
社長の深いため息が、電話越しに重く響く。
組織の成長の壁を感じ、既存の体制では限界があると感じたとき、外部から優秀な血を入れたくなるのは経営者として当然の心理だ。そんな時、人材紹介会社から鳴り物入りでやってきた53歳の幹部候補。年収の提示額は750万円。
「彼なら、私の右腕としてこの組織を次のステージへ引っ張ってくれる」と期待を込めて迎え入れたはずだった。
しかし、いざ入社してみると、現場の社員とはコミュニケーションが取れず、「私の前の会社ではこうだった」と過去の栄光と独善的な判断を振りかざすばかり。あげくに果てに会社の不備ばかりを指摘。エクセルでつくる資料は立派、提案はご説ごもっとも。しかし、口先ばかりで、既存の社員たちとの間に不協和音が鳴り響き、組織の雰囲気はかえって悪くなってしまった。
厳しい言い方になるが、ここには目を背けてはいけない現実がある。
まず知るべき残酷な真実。それは、「53歳で本当に実力のある幹部なら、元の会社が絶対に手放さない」ということだ。本当に会社を背負って立てる本物の幹部は、社長から強く慰留されている。わざわざ転職市場に出てくることなど、滅多にない。53歳という年齢で転職活動をしているのには、口には出さない「ワケ」が必ずあると思って相当慎重に審査を重ねるべきだ。場合によってはお金払ってバックグランウンドチェックをプロにしてもらうくらいでちょうどいい。
では、なぜ彼らが「年収750万円」という立派な値札を下げてやってくるのだろうか。もちろん、750万円などは大手であれば係長や主任クラスの年収だが、中小企業なら立派な管理職の年収なのだ。ここには、人材紹介会社の巧妙なカラクリが存在する。本来であれば年収500万円程度かそれ以下の人材に、紹介料の都合であえて700万円〜800万円の希望年収を設定させるのだ。
さらに厄介なのが、人間の心理を突いた「価格シグナル効果」である。社長は「高い年収を要求してくるからには、それだけの実力があるに違いない」と錯覚してしまう。しかし、その実態は、分厚いメッキが剥がれれば何も残らないことがほとんどだ。
ここで、問題の本質をはっきりとお伝えする。
会社の未来を担う幹部を、お金を出して人材紹介会社から「買う」ことは100%できない。誤解のないように言っておくが、外部の血を入れること自体を否定しているわけではない。お金で買うのではなく、社長自身の人脈で幹部人材を引っ張ってくるのはOKである。くれぐれも、人材紹介会社(それも「スカウト専門」などと謳う会社)に頼りすぎないでほしい。
もし、すでにこうした人材を迎え入れてしまい、「完全に外れだった…」と頭を抱えているなら、一つだけ社長に実践してほしいことがある。
絶対にやってはいけないのは、「給与や賞与を下げて、相手から辞めるように仕向ける」「より簡易な仕事をさせる」ことだ。それは相手のプライドを傷つけ、無用なトラブルを生み、組織の歪みをさらに深めるだけである。
そうではなく、ここは腹を括ってほしい。
「ウチにはあわない」「採用のミスマッチは誠にお詫び申し上げる」「あなたの能力は他で活かしてほしい」と、社長自ら深々と頭を下げて謝罪するのだ。
そして、わずか1年未満の勤続であって(いや、試用期間中であっても)、ミスだ!と思ったら速やかに100~200万円以上の慰労金をポンと支払い、お互いが納得する形での「合意退職」で綺麗にお別れをすることだ。
痛い出費かもしれないが、それは社長の「勉強代」である。現場を混乱させ続けるコストに比べれば、はるかに安いと言える。
難しいのは百も承知であるが、お手軽に即戦力の幹部を買ってこようとする考えを捨て、仕入れ先、業界の会、その他社長や幹部の人脈を使って自分の足で探してほしい、また、今いる社員に真っ直ぐに向き合ってほしい。
何年も自社の泥水をすすり、会社の良いところも悪いところも熟知している社員の中に、必ず「原石」がいる。彼らに思い切って権限を与え、失敗を許容し、時には社長自身が矢面に立ちながら、本物の幹部へと引き上げていく。守りと攻めの強い布陣を築くためには、その泥臭いプロセスから逃げることはできない。
「幹部は買うものではなく、社長の覚悟で見出すもの」
自社の土壌で汗を流して育った人間だけが、本当に会社がピンチになった時、最後まであなたと一緒に戦ってくれる「右腕」になるのである。