「真面目にやる奴はバカだ」若手を洗脳して組織を壊す、40代中途社員の恐るべき手口
「福田さん、せっかく苦労して採用した新卒たちが、ここ最近次々と辞めていく。原因は、数年前に中途で入れた40歳のあの社員だ。どうも私の考え方と合わないと思っていたら影でいろいろやってるんです」
X社長は、怒りと悔しさが入り交じった表情で語り始めた。
彼の手口は非常に巧妙である。会議などで表立って会社に反抗するわけではない。しかし、出張中やランチ、終業後の飲み会の席で、若手たちにこう囁くのだ。
「俺から見たら、この会社のやり方は古すぎる。真面目にやったってバカを見るだけだ」
「経営陣は現場の苦労なんて何も分かってない。お前たちは上手く使われているだけだ。あの社長は3代目で経営能力がない」
「●●部長は依然セクハラまがいのことをしていた」
「若いんだから、この会社を見切ってサッサと転職するべきだ」
社会に出たばかりで不安を抱える20代の新卒社員にとって、大手企業をふくめ他社を経験している40代の先輩の言葉は、妙なリアリティを持って響いてしまう。彼は若手たちの仕事の悩みや小さな不満に巧みに寄り添い、共感するフリをして、その不満を会社への不信感へとすり替えていく。それはまるで、巧妙なマインドコントロールの手法そのものだ。
あまりの執拗さと、裏で若手を引き込む不可解な動きと作為的な行動に危機感を覚えた社長は、会社の産業医に事情を話して相談したという。すると、産業医からはこんな言葉が返ってきた。
「社長、彼のこの執拗なやり方は、典型的な『自己愛性パーソナリティ障害』の傾向がある」
自分は有能だと嘯き、経営者をバカと呼び、真面目に汗を流す人間を嘲笑う。このような人物が一人いるだけで、組織には致命的な「不協和」が生まれる。
ここで見落としてはいけない問題の本質は、彼個人の性格の悪さや、その障害の傾向そのものではない。
「『影の支配者』による組織文化の乗っ取りを、会社が許してしまっていること」にある。
経営者が見ていない死角で、彼は若手にとっての「教祖」となっていた。若手たちは「会社がおかしいんだ」と思い込まされ、次々と去っていく。また、この「エセ教祖」の欺瞞・身勝手を見抜き、これを放置している会社にあきれた優秀な若手も去っていったのだ。残るのは、会社の愚痴を言い合いながら自分の非は決して認めない彼と、その同調者だけだ。このまま放置すれば、組織の未来を担うはずの屋台骨は完全にへし折られてしまう。
では、この静かで恐ろしい浸食をどう食い止めるのか。
「若手に変なことを吹き込むな」と注意しても、彼は「後輩の相談に乗っていただけだ。彼らもそう言っている」と平然と嘯くだろう。もはや対話や指導で解決するフェーズは過ぎている。
ここは、トップである社長が強い意志を持って行動にでる場面である。
まずは、彼と若手社員の物理的・業務的な接点を徹底的に断つことだ。配置転換やプロジェクトの分離を行い、彼の影響力を無効化する。
そして、会社としての評価軸を極めて明確に示すことである。「他者を受け入れず、組織の輪を乱す人間は、どれだけ個人の能力が高くても一切評価しない」。この姿勢を、人事制度と給与・賞与という形で突きつけるのだ。彼が自分の影響力を削がれ、居心地が悪くなって自ら去る環境を作ること。場合によっては、就業規則に則り、職場の秩序を乱す行為として厳正な処分を下す覚悟も必要になる。
真面目に働く社員がバカを見る組織に、未来はない。
「会社を守るとは、真面目に汗を流す社員が報われる『当たり前の空間』を死守することである」
毒を持った人間を排除する「痛み」を恐れてはならない。その毅然とした決断こそが、会社を信じてくれている社員たちの人生を守る、最大の防御となるのである。
それと、採用面、大手出身だから、技能がありそうだかといって軽々に採用してはいけない。適性テスト、複数の目で見る面談、会食、筆跡、場合によってはリファレンスチェックやバックグラウンドチェックもやるべきだ。
X社長がこの件を猛省し、採用面の研究、やり方の改善を行ったことは言うまでもない。