管理職に適用するその年俸制は おやめなさい

「管理職に年俸制」は最悪の給与体系

管理職になったら年俸制、とする会社が少なくありません。しかし、管理職に年俸制とする施策は「最悪の給与体系」です。その理由は2つあります。  

一つ目は、管理職はほぼ、労働基準法41条2号の監督もしくは管理の地位(いわゆる管理監督者)にあるとは認められません。そうなると、年俸600万円の「名ばかり管理職」の場合、仮に月間45時間の残業を行っている場合、賃金の消滅時効を3年とすれば未払い残業代として約600万円程度、5年とすれば1000万円程度に遅延損害金を上乗せされた請求に対して、グーの音も出ず、支払いを余儀なくされます。これらの請求が複数人と重なったら大変です。つまり、「年俸まるごと基礎賃金」として未払い残業代が計算されるのです。ダブルというよりトリプルノックダウンのイメージです。

二つ目は、年俸制であるからといって、給与をアップダウンできるというのは都市伝説に過ぎず、逆に年俸制だからこそ硬直的な賃金になりかねないのです。  

裁判例によると、使用者が一方的に年俸額を減額するためには、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続き、減額の限界の有無、不服申立手続き等が制度化され、就業規則等に明示されていなければなりません。年俸制において年俸の合意に至らないときは、使用者が評価に基づき賃金額を決定することになりますが、そうした評価に関する使用者の裁量権も合理的範囲内に限定され、逸脱は許されないとされます。 (日本システム開発研究所事件 東京高判平成20年4月9日)  

上記の通り、はっきり申し上げて、中小企業には裁判所が認めるような運用ができる体制はありません。年俸制の運用は、人事考課システムが完備された大手企業ならまだしも、中小企業には難しく、当該制度を導入する実益はほとんどないことになります。  

当然のことながら、年俸制であっても残業代支払いが義務付けられることになります。  

管理職に年俸制を適用する発想は、未払い残業代等のコンプライアンスをうるさくいわれない「牧歌敵な昭和・平成バブル時代の遺物」ではないかと考えています。もう、そんな時代ではないのです。    

月給+賞与制度にまさるものはない

上記の年俸600万円の「管理職」であれば、たとえば以下のように支払うべきです。  

基本給    28万円
役職手当    2万円
固定残業手当 10万円
月額     40万円(月額)
賞与    120万円(年額)
年額    600万円(年額)  

そして、中小企業の場合、取締役部長でさえ、月給+賞与でいくべきだと考えています。もちろん、賞与はあくまで見込み額であり、具体的権利ではないという構成をとります。つまり、真の年俸制の適用者は社長、専務、常務くらいで、賞与が損金算入できない専任役員に限るべきだという結論になります。

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