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布陣

テレワークの光と影 〜組織を強くする「線引き」の流儀〜

黒子の手記

「先生、コロナでなし崩し的にテレワークをやってるけど、実はもうやめたいんですわ」

「採用のことを考えたら、フルリモートに近い形を認めなあかん気もする。でも、公平感とか一体感を考えると、どう設計してええもんやら……」

「テレワークやと、コミュニケーションも育成もほんまに難しいんです」

こうした相談が、私の元には「頻発」している。採用競争という戦場において、テレワークは強力な武器(光)になるが、一歩運用を誤れば組織を内部から腐食させる毒(影)へと変貌するのだ。

「自由」という名の「放置」が招く不協和

人手不足・求人難の時代、多くの会社が優秀な人材、特に新卒や若手を確保するために「テレワーク可」を旗印に掲げる。しかし、十分な教育体制や信頼関係がないままに導入された自由は、単なる「放置」に過ぎない。上司の目が届かない場所で新人は孤独に悩み、ベテランは連携の悪さに苛立つ。こうした小さなズレが積み重なり、既存の制度では抑えきれない「不協和」が組織のあちこちで音を立て始めるのである。そもそも日本型雇用システムはジョブ型ではなく、成果指標も曖昧なため、テレワークのマネジメントが本質的に難しいという側面もある。

テレワークを機能させる「3つの絶対条件」

テレワークで生産性が上がるというのは、決して万人に当てはまる真実ではない。それが成立するためには、3つの不可欠な要素が揃っている必要がある。

一つ目は、何をおいても周囲からの「信頼」である。離れていても、期待通りの成果を出すと確信できる関係性だ。二つ目は、自律して業務を完遂できる「能力」。そして三つ目は、監視がなくても自分を律することができる高い「意欲」である。これら三つが掛け合わされて初めて、テレワークは「光」として機能する。裏を返せば、この土台がない社員に自由を与えることは、組織にとってのリスク、すなわち「影」そのものなのだ。アメリカの依存症治療情報サイト「Alcohol.org」が全米の在宅勤務者3,000名を対象に行った調査では、約3人に1人(32%)がロックダウン中の就業時間内に飲酒していたことが報告されている。「ワインではばれるからビールだ」という声すらあった。偉そうに書いている私自身、誰の目もなければ、好きなときに飲み食いし、最低3時間は昼寝をして、マイペースで仕事をする自信がある。人間は、本来それほどまでに弱い生き物なのだ。

会社は「自習室」のような場所である

ある社長は「通勤時間は時間のムダだから、テレワークを推奨する」とおっしゃっていた。確かに移動時間を削ることは合理的だ。しかし、私は会社という場所は、受験時代の「自習室」のようなものだと考えている。自習室へ行く時間は一見ムダに思えるが(いえ、その間も勉強はできる)、他の受験生も必死に机に向かっているあの空間だからこそ、しんどい勉強もがんばれるのだ。同じ志を持つ仲間がすぐそばにいるという環境そのものが、個人の自律を支える大きな力になる。

解決の方向性:自律を促す「線引き」の流儀

もし今、貴社の組織がテレワークという「影」に飲み込まれかけているのなら、今こそ「線引き」をする時である。採用のために掲げた安易な条件を見直し、規律を取り戻す。それは一時的な反発を招くかもしれないが、生産性を上げるためには避けて通れない経営者の責務だ。大切なのは、テレワークを「全員一律の権利」ではなく、「自律したプロフェッショナルへの報酬」へと再定義することである。例えば、入社から一定期間は対面で徹底的に「信頼」と「能力」を磨き上げる。その壁を越えた者だけに、さらなるパフォーマンス向上のための武器としてテレワークを許可する。このように、守りと攻めのバランスを最適化したルールを整えることこそが、組織を強くする唯一の道である。一方で、「線引き」が明確であれば、例外を認めることも戦略となる。離島の居住者や障害を持つ方、あるいは育児・介護の必要がある社員に対しては、契約内容としてフルリモートを認めることもあり得るだろう。

ハイパフォーマーを繋ぎ止める柔軟な制度設計

こんなケースもあった。ハイパフォーマーであるAさんのご主人は自衛官で、3〜4年に1回は転勤がある。全国展開しているX社は、これまでは近隣事業所への転勤で対応してきたが、今回の転勤先には拠点がなかった。Aさんからはフルリモートの要請があったが、一人だけを特別扱いするわけにはいかない事情もある。そこで、Aさんを正社員としてのカムバック制度付きの「契約社員」として雇用管理区分を変更した。当然、賞与や退職金はなくなるが、給与額は保証するという条件だ。Aさんは納得し、今も気分よく働いている。画一的な「正社員」という枠にこだわらず、個々の事情と能力に合わせた線引きを行った好例と言える。

最後に

制度やルールに魂を入れるのは、少し気合がいる。貴社のその「自由」は、社員を成長させているか、それとも甘やかしているか。今一度、冷徹な目で「光と影」を見極めてほしい。

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