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布陣

突然の「退職願」。部長昇進を目前にした40代の要が会社を去る真実

黒子の手記

「社長、少しお時間をいただけないでしょうか……」

夕暮れ時の本社事務所。重苦しい沈黙を破り、彼は切り出した。

来年には部長へと引き上げ、将来の経営幹部として会社を背負って立つことを期待していた42歳の課長である。過去はメンタル不全の時期もあったが立ち直ってくれた。

「実は、10月末で退職させてください」

耳を疑うとは、まさにこのことだ。もう、夜も眠れない。

現場の信頼は厚く、難易度の高いプロジェクトも彼がいれば安心だと、全幅の信頼を置いていた。つい最近も、若手の採用を強化するために初任給を大幅に上げ、組織全体の底上げを図ろうと彼に相談したばかりだ。「会社が良くなるためなら」と、経営者としての決断を後押ししてくれたのも彼だったはずだ。

「なぜ、部長昇進を目前にした今なのか」

裏切られたような寂しさと、今後の組織運営への不安が、激しく心の中で渦巻く。

理由を問えば、転職先で提示された年収は850万円(課長代理)だという。現在、メインユーザーの失注でここ2~3年経営は苦しいながら、彼の年収は42歳課長で700万円出していた。転職して150万円のアップではあるが・・・。スカウト専門の人材紹介会社、●●ノス経由だという。しかも相手は同業で、規模は自社の倍ほどある目の上のたんこぶX社。

「うちはうちの良さがある。年収だけで決める男ではないと思っていたのに……」

そう口にしそうになり、言葉を飲み込んだ。彼が求めているのは、単なる「金」だけではない。そのことに、心のどこかで気づいていたからである。

今、多くの中堅・中小企業が直面している問題の本質は、ここにある。

「若手への『投資』に全力を注ぐあまり、会社を支える『要』である40代への評価が、市場相場から取り残されてはいないか」

深刻な人手不足により、初任給の引き上げや若手の賃金アップは、避けて通れない経営判断である。

しかし、その影で40代の管理職たちは、後輩との給与差が縮まっていく現実を静かに見つめている。彼らには家族があり、住宅ローンがあり、人生で最も資金を必要とする世代だ。

特に建設技術や設計、IT、専門エンジニアといった「採用困難職種」において、実務とマネジメントを両立できる40代は、市場から見れば「喉から手が出るほど欲しい宝の山」に他ならない。

同業のライバル企業は、他社の給与体系・給与水準を冷徹に調査・分析している。「あの規模で、あの仕事をしている課長なら、うちはもっと出せる」と。

年収150万円の差は、生活実感としてあまりに重い。そこに「規模の大きな組織での将来性」という看板が加われば、家族を持つ彼の心が揺れるのは、不誠実だからではなく、一人のプロフェッショナルとして当然の反応だといえる。

これからの経営課題は、組織の屋台骨である「優秀な管理職の給与底上げ」を軸にした「布陣」の再構築こそが急務である。

「外に出ればもっともらえる」優秀な人材を、あえて「自社が最も高く評価している」と言い切れる状態、「社長の後悔のない」状態にまで引き上げる。それはコストではなく、組織の崩壊を防ぐための最重要の防衛策だ。

「部長にするつもりだった」という言葉は、辞表を出された後ではあまりに遅い。今は、それなりの人物はビ●リーチや●―ダXなどにバッチリ登録している。自分の市場価値を知っている。彼らの携帯には毎日「一度お会いしませんか」「あなたの経歴に興味をもって」とバンバンとスカウトメールが届いているのだ。

彼らがその専門性を武器に、誇りを持ってこの会社で旗を振り続けられるよう、人事給与制度という名の「経営者の覚悟」を形にする時が来ている。

若手は会社の未来を語るが、40代の管理職は会社の「今」を命がけで支えている。

人材争奪戦はまさにこれからだ。仕組みづくりを、今すぐ始めるべきである。

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