ベテラン課長を外すか、職場の崩壊を待つか。3代目社長の孤独な苦悩
福田「じゃあ、さっさと降ろしたらいいじゃないですか」
社長「いや、先生、そんな簡単なもんじゃないですよ」
福田「このまま放置しておいていいんですか」
社長「いや、そういうわけにはいかないです」
福田「じゃあ、降ろしましょうよ」
社長「・・・」
早朝、8時からのオンライン面談、このようなやりとりは今月で3回目である。
創業60年を迎える製造業。先代からバトンを受け継いだばかりの3代目の若手社長の相談。社員数は約60名。これから新しい風を吹き込もうと意気込んでいた矢先の、連続する退職ドミノである。今年に入って辞めてほしくない幹部候補の若手社員が3人退職。
原因ははっきりしている。現場を仕切る、勤続30年のベテラン課長。本来部長の技術力はあるが、先代も昇格はしぶっていた人物である。彼の技術力と段取りの早さは確かで、彼がいなければ回らない特注品も多く、会社を長年支えてきた功労者である。しかし、その裏で現場では「見て覚えろ」「そんなこともできないのか」という昭和さながらの怒号が飛び交い、気に入らない若手を徹底的に追い詰める「ハラスメント体質」が常態化していた。
「彼のやり方が時代遅れでキツいのは分かっています。でも、今の生産体制には彼が絶対に必要なんだ。彼を外したら、納期はどうなるか。古参の職人たちも彼についていってしまうかもしれないし……」
頭を抱える若社長の苦悩は、痛いほどよくわかる。代替わりしたばかりの3代目にとって、先代からいる優秀なベテランは頼りになる反面、非常に気を遣う存在だ。現場を回してくれるからこそ、少々の「難」には目をつぶってきた。下手に口出ししてへそを曲げられたら、会社が立ち行かなくなる。その恐怖が、社長の言葉を飲み込ませてきた。
しかし、その「目をつぶり続けた結果」が、今の組織の崩壊である。次代を担うはずの若手たちが次々と去り、残った社員も課長の顔色をうかがいながら萎縮して仕事をしている。組織の歪みが完全に表面化し、もはや社内イベントや表面的な面談といった既存制度では、この不協和を抑えきれなくなっている。
本質は「組織を本当に壊しているのは、ハラスメント社員ではなく、彼に依存し、見て見ぬふりをする会社の目先の利益のみを優先する姿勢である。」
課長のハラスメントが直接的な原因に見えるが、若手社員たちが絶望して去っていく本当の理由は違う。「あんな理不尽な振る舞いがまかり通るんだ」「若い社長は、私たちのSOSよりもベテランの機嫌を優先するんだ」という、経営トップに対する深い不信感なのだ。一度失われた社長への信頼は、ちょっとやそっとの対策では取り戻せない。
では、どうすればいいのか。
社長自身が腹を括るしかない。まずは、「職人の技術よりも、互いを尊重する組織のルールを優先する」と社内に明確に宣言することだ。ただ、簡単なことではない。
課長には、これまでの貢献と技術力を評価していることを真摯に伝えた上で、「今のマネジメントスタイルは、これからの会社では一切許容できない」と毅然と突きつける。部下を持たない「技術専任課長職(給与水準は維持)」への転換をする。そのうえで、社内ルールと人事・給与制度そのものを根底から見直し、後進の育成やチームワークを評価基準に組み込むなど、痛みを伴うメスを入れる覚悟が必要である。人事給与を武器にした本質的な解決策こそが、会社の土台を創り直す。
先代からの古参社員と向き合うのは「劇薬」を飲むようなものである。売上利益を一気に失う恐怖もあるだろう。しかし、毒を放置すれば、やがて若手が一人もいなくなり、会社そのものの未来が死んでしまう。課長の言動はエスカレーションし、もっと社長は追い詰められるからだ。