オーナー会社は使用人兼務役員を出世の上限としよう

「役員」と一言で言いましても、いろいろあります。

福田事務所は、非上場のオーナー会社には従業員出身の役員登用については使用人兼務役員をおすすめしています。会社によっては執行役員をおすすめしています。私は「取締役」としての自覚と、社長と危機感を共有するという面では「使用人兼務役員」をたくさん育てることを推奨しています。法的に「役員」を整理してみたいと思います。

1.いわゆる「役員」を整理する

<取締役>

いわゆる専任取締役です。契約は「委任契約」となります。一般的に報酬がゼロというのはありませんが、ゼロでもかまいません。労働者性がありませんから、雇用保険や労災保険の加入はありません。したがって、業務上の病気や怪我は労災の特別加入や民間の保険でカバーしていくことになります。

一般的に専任役員になれば、従業員時代の退職金は清算します。

<使用人兼務役員>

いわゆる従業員役員です。労働者としての労働契約と取締役としての委任契約のミックス契約となります。取締役総務部長や取締役工場長などが一般的です。報酬の過半を従業員給与で受領し、出退勤が管理されるなど、従業員性を有することが条件です。メリットは勤務成績や業績に応じて、従業員賞与を支給することができることです(従業員賞与は損金処理できますが、過大部分は役員賞与として損金不算入になるリスクもあります。)また、従業員給与部分で雇用保険や労災保険にも加入できるため実態に合っています。

一般的に退職金は使用人兼務役員就任時は清算せず、役員を退任したときに支給するので、労務管理上の違和感もありません。たとえば、中小企業退職金共済なども掛け続けることができます。

上記の2つの取締役は法務局に役員として登記しているので、会社法第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)により、会社が倒産・債務不履行等した場合、役員報酬ゼロ、非常勤でも役員個人責任を負います。この事実は役員就任時にしっかり本人に伝え、緊張感をもってもらいます。

また、税法上、同族会社(同族グループ第1順位~第3順位の持ち株割合合計50%超)において、その第1順位~第3順位の同族グループに属し、取締役でなくても同族(6親等以内の親族・3親等以内の姻族)で10%超かつ夫婦合計で5%超の株式保有者はみなし役員となるので賞与は損金不算入となるリスクがあります。

<執行役員>

執行役員は会社法第423条の役員等(取締役・監査役・会計参与)ではないため、会社法第429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)の責任は負いません。

① 委任契約版

一般的に報酬ゼロはないですが、民法第648条(受任者の報酬)により、特約がなければゼロでもかまいません。報酬が0でなければ社会保険には加入しますが、労災保険・雇用保険に加入したら委任契約とはなりません。従って、従業員から執行役員となった場合でこれまでの従業員部分についての退職金を支払う場合は、委任契約の執行役員で労災保険・雇用保険に加入していると引き続き従業員とみなされ退職金は退職所得控除できず損金処理できないことになります。

取締役と同等(実質的に経営に従事)であると判断されると賞与は損金不算入となります。執行役員を辞める場合の退職金は過大でなければ認められます。

会社法429上(役員等の第三者に対する損賠賠償責任)の責任は負いませんが、民法第644条(受任者の注意義務)により会社に対し善管注意義務を負うことになります。

② 労働契約版

労働契約を締結し、雇用保険及び労災保険に加入することになります。賞与は損金処理が可能です。退職金についても、従業員退職金規程を用いて、当該規程に「執行役員加算」という規定を設ければ対応できます。

2.オーナー役員と非オーナー役員は根本的に違う

上場企業と未上場企業との間には、大きな差異があります。その差異とは「個人保証」と「最終責任」です。未上場企業は、金融機関から借入をする時に原則として社長の個人保証を求められます。個人保証をすれば、会社が倒産すると私財を全部失うことになります。つまり逃げも隠れもできず、最後の最後まで責任をとり続けます。この点、従業員出身の役員は、通常の場合、個人保証などは行いませんので、イザとなったら会社を辞めれば良いだけです。

 ここにオーナー役員と、非オーナー役員の違いがあります。だから、たとえば、社長(オーナー)と専務(非オーナー)であれば、その報酬・役員退職金は、その額が大きく異なるのは当たり前です。同列に「役員の地位」と「処遇」を論じるほうがおかしい。

役員退職金ですが税法ではオーナー役員だけ高額な退職金をとれば、「お手盛りですね」と言って税務署に否認されることがあります。しかし、オーナー役員には事業承継のために、株価対策・株の買取り資金作り・納税資金づくり等の次元の異なる対策を打たなければならないのです。

ですから、多くの中小企業において、オーナー役員は(専任)取締役して処遇し、その責任度合いから非オーナー役員に対しては労働契約を前提とする、執行役員又は使用人兼務役員とすることが実態に合っているといえます。具体的対策は、執行役員・使用人兼務役員について、従業員の規定の枠組みの中で、厚遇する社内規定を整備しておくということです。ここを曖昧にすると後がとてもややこしくなります。

3.社内に「専務」や「常務」を作りたければ?

上場企業の役員さんの名刺を頂戴したときに「取締役 兼 常務執行役員」とか「取締役 兼 専務執行役員」という肩書を見たことはないでしょうか。私は最近ずいぶん増えてきたようにおもいます。彼らは使用人兼務役員ではないでのですが、オーナー会社で社内に専務や常務を作りたければ、「専務執行役員」や「常務執行役員」をつくればよいのです。専務や常務は登記事項ではなく、法律用語でもありません。単なる社内呼称です。「専務執行役員」の法的身分は「執行役員」であり、労働契約関係にある使用人です。一方、商業登記にこだわる場合、「取締役 兼 常務執行役員」とし、先に述べたように、労働者性を具備した労務管理を行うことを前提に「使用人兼務役員」として処遇することもできると考えます。この場合、考え方が錯綜するので第三者に説明できるように「執行役員規程」を整備しておきましょう。

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