血を流す改革の前に、トップがすべき唯一のこと
「ウチは地元の名士だし、銀行が見捨てるはずがない」——。
かつてテレビCMも流し、ある分野で確固たるシェアを持つ社員700名の老舗製造業。豪華な懇親会、社員旅行で地元では有名であった。その役員会議室には、長年培ってきたプライドと、根拠のない楽観論が漂っていた。
16名もいる「役員」(非常勤含む)たちは、いくつものハンコが並ぶ分厚い稟議書を回しながら、スピード感のない意思決定を繰り返していた。いわゆる「大企業病」である。そうこうしているうちに環境変化は著しく業績は悪化。過去の設備投資の失敗も重なり、会社はついに赤字へと転落し、資金繰りに窮することとなった。
それでも「ウチに限って」と高を括っていた役員たちだったが、ある日、冷酷な現実を突きつけられる。メインバンクである都市銀行から、短期融資の書き換えを明確に拒絶されたのだ。
銀行に頼めない以上、自力で生き残るための資金を捻出しなければ、会社はあっけなく倒産する。ギリギリの試算の結果、導き出された結論は「100名の人員整理」であった。
当然、役員会は猛反発し、大紛糾する。「そんな人数をリストラしたら、現場が回るわけがない」「一体誰が責任を取るんだ」と。
そこで、社長が下した決断。それは「まず、16名いる役員を7名に減らす」ことであった。社長の役員報酬は月額20万円に大幅ダウン。
組織の危機を救うのは、現場に血を流させる前の、トップの強烈な覚悟である。
会社が生きるか死ぬかの瀬戸際で、痛みを伴う改革が必要なとき。上の人間が安泰なまま、現場にだけ犠牲を強いるような組織に、未来はない。社長自身が片腕となる役員たちの首を切り、自らの身を切る不退転の姿勢を見せなければ、本当の意味で会社を変えることなど不可能なのである。
役員をリストラした社長の覚悟は、社内に重く響いた。そして、その決意のまま、100名の人員整理を断行したのである。発表前の少し硬直し、赤みがかった社長の覚悟の横顔は今でも忘れない。労働組合もあったため、希望退職や人員整理のプロセスでは福田と一緒に社長は罵声を浴びた。3名の元社員から訴訟を提起されるという苦しい局面もあったが、顧問弁護士の先生の尽力で無事に和解へと至った。
結果はどうだったか。
会社を去った役員たちの「100人もいなくなれば仕事が回らない」という危惧は、完全に外れた。100名が姿を消しても、驚くほど売上は変わらなかったのである。
それどころか、多すぎる役員と無駄なハンコが消えたことで意思決定のスピードは劇的に上がり、組織は1年後には一気に活気に満ちた。工場での歩くスピード・動作も完全に変わった。現在、その会社はさらなる合理化より、社員450名でも毎年10億円を下らない利益を継続的に生み出し、隆々と生き残っている。