M&Aは「売り」の一手、「買い」はおすすめしない
「もう、福田先生までやめてや・・」
20年を超えるお付き合いのH社長(72歳)に、事業承継の選択肢としてM&Aでの「売却」について提案したときのことだ。普段は温厚な社長の顔が曇った。無理もない。手塩にかけて育てた会社である。かわいい息子に継がせるつもりなのだ。自宅にもM&A業者から届くたくさんのDMにうんざりしているとおっしゃいたことも承知している。
社長のご子息(課長代理 34歳)はすでに社内で働いている。しかし、私はあえて申し上げた。この業界は今、並大抵の経営努力では生き残れない。大変心苦しいが、ご子息にはその資質が乏しいのが現実だった。今の過酷な経営環境のまま、借入金や連帯保証ごと会社を背負わせるのは、決して彼のためにはならない。そう確信したからこその「売却」の提案だったのだ。
数ヶ月後、その社長からポツリと電話があった。「……やっぱり、相談に乗ってほしい」
冷静に将来を見据えたとき、親としての葛藤と、経営者としての孤独なため息が受話器越しに伝わってきた。受注減少や人材不足、度重なる賃上げ、資材等の仕入値上昇、資金繰り、そして銀行等の今後の金利上昇。これらをそのまま引き継がせ、子息が株式保有のまま事業承継した場合の厳しい経営環境に対する心配から解放されたいと願うのは、親として当然の感情である。また、聞くところによると、「息子を後継者に・・」といったら幹部会議上で幹部全員が猛反対したともおっしゃるのだ。
私は人事給与の専門家として、クライアントがM&Aで「買う」側に回った際、子会社となった企業の労務管理指導や制度統合を依頼されることが多い。買収先の蓋を開けてみると、そこには既存制度では抑えきれない組織の歪みや不協和が表面化しているケースが散見される。そう、会社を売りに出すには「売りに出す理由」があるのだ。
その一方で、事業承継の一環として、会社を「売却する」案件にもこれまで複数関わってきた。両方の裏側を見てきたからこそ、確信を持って言える本質がある。
「事業承継における悩みのほぼ全ては、会社を『売る』M&Aで解決する」
身売りと聞くと抵抗があるかもしれないが、M&Aによって会社を譲渡すれば、社長は会社の借入金や連帯保証から完全に解放される。もしM&Aをしない場合、連帯保証は配偶者や子にそのまま相続されてしまうという残酷な現実があるのだ。
さらに、譲渡後も社名はそのまま残り、従業員の賃金等も保証されるため、社員に対する責任もしっかりと果たすことができる。社長ご自身の相続税の納税資金も、余裕をもって準備できるのである。
もう一度強調したい絶対に外せない鉄則がある。
M&Aの「買い」は、決してお勧めできない。
特に、M&Aの専門業者が「いい案件がありますよ」と持ち込んでくる売り案件は、ババ抜きの「ババ」を引かされる可能性が高く、怪しいものが多いのが現実だ。私はクライアン企業である「買い手」側の子会社(買収企業)の労務指導に入るたびに、そのリスクの高さを肌で感じている。また、子会社に派遣する経営人材が親会社である中堅・中小企業にもサッパリいないのだ。したがって、あくまで自社を「譲渡する(売る)側」の選択肢として考えるのがよい。
では、何から始めればいいのか。
まずは、3期分の決算書と科目明細書をもとに、自社の「M&A算定価格」を知ることから始めてみてみる。福田に送っていだければ無料で査定する。通常、相続税法上の株価の数倍という評価がつくことが多い。まずは価格を知ってから、実際にM&Aを進めるかどうかを判断すればよいのである。
いざ進める場合でも、着手金を要求したり、買主に法的拘束力のない基本合意書の段階で報酬を請求してくるような仲介会社には注意が必要だ。また、譲渡後も数年間は代表取締役社長として続行し、その後は取締役ではない会長や相談役等になる事が多いので、急に会社を追い出されるような心配はいらない。
事業承継とは、単に血縁者にバトンを渡すことではない。
「会社と社員を守り、そして社長ご自身の人生と家族の未来を守り抜くこと」
それが本当の承継の姿である。まずは、自社の本当の価値を知る。そこから、重い肩の荷を下ろす次の一歩を一緒に考えてみるのだ。