時給アップ時代のパート従業員の賃金管理
時給を上げると働いてもらえなくなる苦悩
パート従業員(特に主婦)を募集しても、サッパリ応募がありません。都心部では、初任時給1,300円程度でも応募がありません。最低賃金の上昇、人手不足により、パートの時給がどんどん上がっています。また、数年前に派遣法が変わり、大手派遣会社を中心に、時給に「賞与分」と「退職金分」を組み入れて決定されるようになりました。その結果、職選びの選択肢の一つである派遣の時給が値上がりしたことも一因です。
さらに、初任時給を上げる場合、在籍者の時給もベースアップせざるを得ません。しかし、ベースアップすると、いわゆる年収の壁で、103万円、106万円、130万円での就労調整が、今まで以上に起こってしまいます。スーパーや、お歳暮商戦で売上を上げる企業など、年末12月に超繁忙期なのに、パート従業員がシフトに入ってくれないのです。人手不足の状況下での時給アップと就労調整の間で、会社の苦悩は深まるばかりです。
パート従業員の昇給はどうするか
最低賃金をクリアする前提で昇給はどうするか?
私の地元の京都では、令和5年10月より最低賃金が1,008円になりました。そして、初任給は時給1,200円以上とする会社が過半数に上ります。ここから、毎年10円~20円程度昇給していくとします。そうすると、年収の壁問題の弊害がさらに増して、さらなる就労調整を招くという「悪循環」になります。パート従業員の士気を高めるために、寸志として、一時金を支給する会社も多かったのですが、年収の壁問題が立ちはだかるパートさんに支給する余地はないこととなります。
おおむね以下のようなモデルになります。
| 時給 | 昇給 | 週勤務 時間 | 月給 | 交通費 | 年間賞与 | 年収 | 期間の 定め | 備考 |
| 1,300 | 20 | 17 | 95,030 | 10,000 | 1,260,360 | 有り | ||
| 1,320 | 20 | 17 | 96,492 | 10,000 | 1,277,904 | 有り | ||
| 1,340 | 20 | 17 | 97,954 | 10,000 | 1,295,448 | 無し | ||
| 1,440 | 100 | 20 | 123,840 | 10,000 | 100,000 | 1,706,080 | 無し | 社会保険加入 |
| 1,460 | 20 | 20 | 125,560 | 10,000 | 100,000 | 1,726,720 | 無し | |
| 1,480 | 20 | 20 | 127,280 | 10,000 | 100,000 | 1,747,360 | 無し | |
| 1,500 | 20 | 20 | 129,000 | 10,000 | 100,000 | 1,768,000 | 無し |
週17時間勤務から週20時間勤務に時間を延ばしていただいたら100円時給アップします。パート従業員はいきなりドンとアップすることは好みません。家庭の都合を優先して働きたいのです。ちょっとずつ時間増加を図るほかありません。さらに、社会保険に単独加入していただいたら、賞与(たとえば、夏50,000円、冬50,000円)を支給します。有能な方ならこの倍以上でもいいでしょう。
また、有期契約にこだわらなくてもいいです。1年目、2年目で選別して、標準以上の人物なら、会社から無期転換契約にします。
社員の月給下限との賃金逆転はやむを得なくなる
図によると、パート従業員でも時給1,500円まで上昇しています。これは月給換算で255,000円です(平均所定労働時間170時間)。時給換算では、社員の最下限の賃金と逆転することになります。これだけ最低賃金が上がり、パートの労働力不足ですから、仕方ないと思います。社員には「一定の賞与があるので、パート従業員とは年収逆転しないです」というほかないでしょう。
パートの戦力化とは勤続5年以上の定着である
パート従業員の生産性向上が急務です。そのためには相場以上の初任給を提示し、良い方に入社してもらい、さらに定着していただく必要があります。単独で社会保険に加入するくらい働いていただきたいです。そして、5年以上は勤務していただきたい。私は、パートの戦力化とは、端的に言って「定着化」だと思っています。
これからのパートの労務管理の要諦は
① 相場に絶対に負けない初任給
② 5年以上勤務してもらえる定期昇給
③ 年次有給休暇がとれる一定のゆとり
です。賞与は社会保険加入の呼び水として機能させることです。できるだけ、社会保険加入の奨励です。そうでないと、壁だらけの現状の制度下ではとても有効な労務管理ができないからです
年収103万円以下にこだわるパートさんをどうするか?
ご主人の会社の「家族手当」の要件が年収103万円なので、103万円にこだわるパート従業員は少なくありません。都心部でこの103万円にこだわられる場合、もうお手上げです。要するに、定期昇給もできませんし、賞与も払うこともできません。103万円以下を前提に一定程度の初任給を提示する場合、極めて短時間しか働いていただくことしかできません。
このようなパート従業員には、定期昇給も、賞与もないと告げます。処遇アップを求める場合、130万円まで働いてください、または、社会保険に単独加入するくらい(具体的には週20時間以上)働いてください、というほかないのです。
この年収の壁問題は、私が独立した20年以上前から問題提起されています。しかし、昨今さらにゲームのルールが複雑怪奇となり、何ら解決していません。これは為政者の「不作為の罪」と言っていいでしょう。最大の壁は国税庁と社会保険庁の既得権益の壁なのです。