賞与規定はテキトーなほうが良い理由

よくあるこんな例① A社

A社の賞与制度の規定は以下のようなものであったとする。
 
賞与=基本給✕月数✕評価係数(SABCD)
月数が仮に1.5ヶ月、評価係数がS:1.4、A:1.2、B:1.0、C:0.8、D:0.6。
 
基本給30万円のベテラン社員Xは、かなりの問題社員。遅刻はしないが、意欲・能力は著しく低く、独善的で横柄なので、周囲からは疎んじられている。会社の方針には、反抗的・非協力的。会社としては、できれば速やかにお辞めいただきたい人物であった。
 
しかし、このX氏に最低ランクのDがついたとしても、賞与が30万円✕1.5ヶ月✕0.6=27万円が支給される。言い方を変えれば、著しく勤務成績が悪いX氏でも、最低でも27万円の賞与請求権を持っているといえる。この賞与を仮に10万円にすると、差額を請求される可能性がある。
 

よくあるこんな例② B社

B社の賞与制度の規定は以下のようなものであったとする。
 
会社は、会社の業績等により原則として年2回、7月と12月の会社が定める日に賞与を支給する。ただし、会社の業績状況等により支給時期を延期し、又は支給しないことがある。


2 前項の賞与の算定対象期間は次のとおりとする。
7月  前年10月1日から当年3月末日
12月 当年 4月1日から当年9月末日
3 賞与は、支給日当日に会社に在籍していた者について支払うものとする。
 
上記のような規定のB社で、以下のような事件が起こった。
 
この会社は7月10日を賞与支給日としていた。中堅社員のYは、給与締日の7月15日を退職日として、6月5日の夕方に上司不在の机の上に退職届を置き、退職日までの年次有給休暇申請をして、翌日から来なくなった。大切なプロジェクトの引き継ぎなどは一切なく、職場は大慌て。仕事を徹夜でカバーした上司・同僚・部下の怒りは収まらない。
 
Yには7月賞与の受給資格はある。また、前年10月1日から当年3月末日までの評価はB評価であった。規定通りに考えれば、Yに賞与がそれなりに支給される。
 
しかし、こんなことが許されるなら、組織は成り立たない。
 

こんな規定なら賞与の支給の有無・金額は自由!

 
第◯条
会社は、会社の業績、従業員各人の査定結果、会社への貢献度等を考慮して、賞与を支給するものとする。ただし、会社の業績状況等により支給しないことができる。


2 賞与の支給対象者は、賞与支給日において在籍する者とする。
このゆるい規定っぷり・・・。支給月さえ書いていない。確実にその月に出すかもわからないからだ。
 
社労士さんに「もっと具体的に書きなさい」と注意を受けそうな規定である。
しかし、このような規定なら、A社の事例では、従業員各人の査定結果、会社への貢献度を考慮して、賞与を支給しないことも可能だろう。寸志程度やゼロもありうる。


B社の事例では、査定期間などないので、こんなヒドイ辞め方をする人物には賞与を支給しないことも経営裁量でありえる。つまり、賞与金額決定時の総合評価ができる。


月例給与の減額規定は、こうはいかない。給与の減額は、合理的な根拠(明確な規定)がいる。しかし、賞与の規定はテキトーであるに限る。書いてしまうと逆に縛られる。
 
規定というのは、会社の意向に沿わないのであれば、具体的に書けばいい、というものでもない典型例だ。

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