能力の低い問題社員の60歳再雇用にどう対応するか?

60歳再雇用で基本給6割以下は不合理?

定年後再雇用者の基本給減額の是非が争われた訴訟の判決で、名古屋地裁は令和2年10月28日、同じ仕事なのに基本給が定年前の6割を下回るのは不合理な待遇格差に当たると認め、名古屋自動車学校(名古屋市)に未払い賃金分の支払いを命じました。  

私はこれから60歳再雇用の処遇に関する紛争が頻発すると予想しています。  

確かに同じ仕事で、59歳時の給与の6割をきると厳しい・・

キーワードはやはり「同じ仕事」「6割」ではないかと思います。上記の自動車教習所の給与体系の詳細は省略しますが、一般的に「所定内給与の6割未満」で「同じ仕事」というのはリスクがあります。避けるべき給与水準と言えます。おそらくこの場合、賞与等はもっと減額になるでしょうから、年収ベースは半分以下になることさえありえます。

この点、大手企業の社員なら59歳時点の給与の半分、いやそれ以下になることも珍しくありません。もともと給与水準も高く、年功賃金で割高だからです。しかし、本件判決の教習所職員の場合、59歳時点の給与水準は必ずしも高くありませんでした。高くない給与をグンと下げて、基本給が新入社員以下になった、というわけです。  

能力の低い問題社員への対応

上記のような裁判例が積み重なってくると、能力の低い問題社員への60歳再雇用時の対応が難しくなります。

つまり、「評価に基づく合理的な区別」なのか、「不合理な差別」なのかの境界が難しくなるのです。 問題社員への対応として、使用者側の“禁じ手”は、とにかく辞めてもらいたいとして再雇用そのものを拒否することです。最高裁判決(津田電機計器事件平24.11.29)の影響により、再雇用そのものを拒否するのは難しいです。

そうすると、次に考えるのは再雇用者に対する給与等の労働条件の引下げとならざるをません。つまり、能力の低い問題社員であっても、再雇用を拒否せずに、社内で影響が少ない業務につかせることを前提に再雇用の労働条件を提示するわけです。

この場合、名古屋地裁で不合理と認められたような「同じ仕事」ではいけません。できるだけ簡単な仕事をしてもらいます。そうすると、当然給与も低くなりますし、業務量が少ないのであれば1日の労働時間を1時間程度短くし、又は勤務日数を1日減らした条件もありえるでしょう。時間が減った分の給与減額は不合理ではありません。  

トラブルを回避するため注意したいこと

しかし、60歳再雇用時に当該社員にとって不本意な労働条件の提示がなされると、労使トラブルに発展します。昨今の「同一労働同一給与」の雇用政策の流れからしても、トラブルは極めて起こりやすい環境になりました。能力の低い問題社員に対応するための注意点は以下です。  

その① 少なくとも1年以上前に再雇用時の労働条件を伝える。

私のクライアントでトラブルになったケースの共通項がおおむね定年前の3ヶ月以内に再雇用時の本人にとって不本意な労働条件を告知したことでした。本人にとっても生活設計が崩れてしまいますので怒るのも無理はないと思います。可能な限り、2~3年前から本人に評価を伝えましょう。「このまま改善が見られなければ、再雇用後は××のような軽作業をやってもらうほかなくなります。そうなれば給与は時給◎円程度になります。さらにフルタイム勤務をしてもらうほど業務量がありません」とはっきりと改善の機会を与え、告知をしておきます。  

その② 60歳以降の給与決定基準は明確にしない

60歳以降の給与決定の詳細を明示している会社があります。これは標準以上の社員にとって目安になりますので望ましいといえます。しかし、多くの場合、問題社員対応を想定していませんので柔軟性に欠けます。

たとえば、給与規程に60再雇用時の給与について、A評価:30万円、B評価:25万円、C評価:20万円などの給与規程上の定めがあったとします。そして、ある問題社員はC評価だったとします。しかし、会社が「彼にはパート並みの業務しかやってもらう仕事がない」として、給与を月額15万円としました。そうすると、就業規則違反となり、差額が請求されてしまいます。  

その③ 給与水準を下げ過ぎない(やりすぎない)

私は原則として中小企業の場合、「所定内賃金の6割というのは減額の下限である」と企業は考えたほうが良いと考えています。もし、職務の内容・業務量から、それ以上の減額で労働契約を締結したい場合は、時間や勤務日数を減らして対応するべきです。

そのうえで、再雇用者にも査定のうえ賞与を支給するほうが良いと考えます。

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