中小企業は出向規定を改めて整備しよう!

コロナで出向は違法?!

A社は製造販売業。コロナで仕事がなくなり、社長の知人の会社(B社)で人が足らないので、B社にA社在籍のCさん(男性 53歳)を出向させることになりました。ところが、Cさんはこの出向を拒否しました。

A社の就業規則には以下のような記載がありました。

「第●条 会社は、業務上の必要があるときは、在籍のまま、他の事業所への出向を命ずることができる。正社員は、正当な理由がない限り出向命令を拒むことができない。」  

A社の社長は、就業規則に記載があるし、ドラマの半沢直樹でもバンバンと出向させている。さらに経営が苦しいのだから当然にできるものと考えていました。ですから、業務命令に違反としてCさんをバッサリ解雇しました。

そうこうしているうちに1か月後、Cさんは解雇無効の訴えを起こしました。  

訴訟の結論として、年収2年分くらいの和解金が提示されました。社長は「今そんなもんは払えない」ということで、Cさんを職場復帰させ、雇用調整助成金をもらって、Cさんを休業させる日々が続いています・・。  

多くの出向命令は同意があるが・・

私自身、出向命令について顧客において争い、訴訟に発展した経験はありません。多くの場合、本人が明示又は黙示に出向命令について合意しているからと言えます。つまり、「嫌だ」という人を出向させると出向先にも迷惑がかりますのでお互いのためにならないからです。しかし、もし、合意なく、争いになったら中小企業の出向は多くの場合、敗訴するのではないかと考えています。

簡単に言えば、A社に入ったのに、B社で勤務するのは例外なのです。例外なので出向の要件は法的には厳格に判断されてしまいます。コロナ禍でANAのCAさんが全く別のコールセンターに出向する例などがTVなどで放映されていますが、あれはすべて出向の合意が成立しています。  

出向が有効に成立する要件は厳しいと理解しておく

労働者が自己の雇用先の企業に在籍のまま、他の企業の事業所において相当の長期間にわたってその他の企業の業務に従事することを出向(在籍出向)といいます。

原則として出向を命じるには労働者の同意が必要です。例外として、就業規則に出向を命じうる旨の規定があり、出向によって賃金・退職金その他労働条件等の面での不利益が生じないように制度が整備され、出向が実質的に見て配転と同視されるような場合には、労働者の個別的同意がなくとも出向を命ずることができることになっています。  

ただし、規定をしっかりと仕上げた場合でも、その出向命令が、出向の必要性、対象労働者の人選の合理性、労働者の不利益、出向にかかる手続の相当性などに照らして、その権利を濫用したものと認められる場合は、無効となることがあります。  

出向規定を改めて整備しよう

99%の中小企業の出向規定は不十分です。これは過去に私が作成した就業規則、書籍として出版した規則も含めて自戒の意味も込めて申し上げています。

出向規定には以下の定めが必ず必要です。具体的に、①出向先、②期間、③手続、④労働条件、⑤復職後の扱いなどを記載です。関連会社なら当然に出向命令が可能なはずだとお考えになる向きがあります。しかし、私はそう思いません。関連会社の出向が当然のこととして行われているのであれば、関連会社に出向させるための規定を整備するべきです。関連会社でない場合は会社名も明記するべきです。関連会社であれば関連会社の定義も記載しておくなどの対応もありえます。

雇用を守り、経営の柔軟性を確保するために出向規定を見直しましょう。

目次