中小企業の労働生産性の上げ方①

とても深刻な失われた30年

 ある経済学者がこのようなことを言っています。「国家間で、マラソンで競争している。だが日本だけが、この30年間立ち止まって動こうとしない。後から走ってきた国が、次々と日本を追い抜いていく。日本はかつて1位、2位を争っていたが、日本の順位はどんどんと落ちていく。だが、日本というランナーはなぜか一向に走ろうとしない。」その結果、一人当たりのGDPは韓国に抜かれ、平均賃金は米国の半分、部長の給料はタイより低く、労働生産性は旧東欧諸国と同じです。

 日本の労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は、OECD加盟34ヵ国中第28位(2020年)で、主要7ヵ国では1994年から22年連続最下位となっています。ポーランドや東欧、バルト海諸国と同水準、米国の約6割です。

 これではマズイということで、日本政府も掛け声だけは欧州の労働生産性の高い国を見習って以下のようなことを言い始めました。いわゆる、政府が主導する三位一体の改革です。

<三位一体改革>
①リスキリングによる能力向上支援
②個々の企業の実態に応じた職務給の導入
③成長分野への労働移動の円滑化

 いま、私は上記の分野の改革と非常に近い立ち位置で仕事をしていますが、全くと言っていいほど進んでいません。「先生、社内でリスキリングをしようと頑張っているのですが、サッパリうまくいきません」というご相談も多いです。

人材の固定化が最も危険

 今年になって、日本の上場企業で人員削減が加速しています。2025年はすでにリーマン・ショック直後(2009年)に次ぐ水準です。黒字でもリストラを実施しているのです。欧米の大企業で変化を予測したリストラがさかんです。特に、私のような団塊ジュニア世代の50歳前後以上がリストラの対象です。人手不足なのにおかしいという意見もありますが、AIを含めた急激な技術革新が「過剰」と「不足」を鮮明に色分けているのです。

 日本の労働生産性の低い原因は、政府が今更ながら言い始めた上記の「三位一体改革」がこの30年間全く進まなかったことが大きいです。

 この点、ドイツは30年以上前に解雇規制を緩和し、企業が人員を整理しやすくした一方で、職業訓練(リスキリング)や就労支援を政府が積極的に関与しました(「アジェンダ2010」いわゆる“シュレーダー改革”)。雇用の柔軟性(フレキシビリティー)+手厚い社会保障(セキュリティー)=フレキシュリティーといいます。要するに解雇規制を緩めて、セーフティーネットを強化し、国家ぐるみで労働移動とリスキリングを強化したのです。

 日本はこの30年間、真逆の労働政策を取り続けてきました。強烈な解雇規制を維持して、それほど人材投資も行わずに、人材を固定化する政策です。いま、大手企業が黒字なのにリストラを進めていますが、不透明で変化の激しい経済環境下では人材の固定化が最も危険なのです。能力不足の解雇の裁判例を10個読めば、誰も起業して人を雇用するなどしなくなることでしょう。

 日本企業は、「今いる人を活かす」という方針です。この美しいワードに反論をする日本人はいません。でも、この考え方では勝てないのです。必要な人・欲しい人を労働市場で調達するというのがグローバルスタンダートです。労働市場においては、労働者は組織にとって有益となるよう自分を磨くのです。日本の「今いる人を活かす」ことの限界が、昨今のリストラです。つまり、年収の2~3年分払ってでも辞めてもらわなければならない、40代~50代はもう我が社で再教育して活かすことはできません、というのが大手企業のリストラの意味するところです。

国家経営も企業経営も原則は同じ

 私は国家経営も企業経営も原則は同じだと思っています。政治について意見したくはありませんが、現在、日本では参議院選挙目的に財源の裏付けが無いままに、所得税の減税、高校授業料無償化(高等学校等就学支援金制度の拡充)、ガソリン暫定税率の廃止、さらには消費税の減税まで提唱される始末です。国のバランスシート、日銀のバランスシートをご覧になったことがない議員の先生方ばかりのように見えます。いま日本国債が、借り換え、借り換えで資金繰りに窮した中小企業と同じにもかかわらずです。今後、借り換えができない、国債の新規発行がすすまない、国債が暴落すれば、日本はひとまず破綻処理に入ります。

 日本はこの30年以上、海外投資を増やし、海外生産比率を高めていきました(中国等の価格競争に身を投じていきました)。国内の人的投資・人材育成を抑え、賃金を抑え、非正規を増やし、生産性が低迷しました。国内消費が伸びず、デフレが常態化し、負のスパイラルに陥る結果となりました。一方、ドイツ等の労働生産性の高い国は国内生産に拘り、自国から世界に向けて輸出を強化しました。高付加価値・高単価路線の追求(高いお金を出してでも、どうしても欲しいというものをつくること)に注力したのです。

(中小企業の労働生産性の上げ方②に続く)https://fukudasiki.com/blog20250520_2/

目次