職人の労働時間管理はどうしたらいいですか?

職人の世界は最も労働時間を管理しにくい世界です。

ピアノの調律師という職業があります。この調律師も職人気質の強い職業で、調律師は各自得意な分野を持っており、また独立志向も強い人もいます。ピアノの鍵盤数は88、弦の数は200本以上あり、調律師は弦の1本1本の長さを繊細な技術によって調節することで、「柔らかさ」や「シャープさ」などの音色を聴きとって、それを実現していく。熟練の技があればあるほど、様々なタイプの音色に仕上げることが出来ます。音楽に超精通した経営者なら別だが、まずわからない非常に繊細なプロの世界です。

労働基準監督署が入って是正指導があり、解決策を協議しているときに、調律師の親分は「でも、先生、調律のやりがいはピアノに命を吹き込むことなんですよ!!」とわかったようなわからないことをおっしゃいます。

このような熟練の技、センス、デジタル化・マニュアル化が難しい仕事につく人は、料理人、パティシエ、医師、税理士、ハッカーなどたくさんあります。

このような職人集団と、必ず企業の経営管理センター(事務方)とは対立することになります。つまり、どこまで行ってもわかりあえず、職人の世界に経営管理の要素が介入しにくいのです。

これは労働時間管理も同様で、職人の世界ほど若い頃は技を教えたり、教えられたりするものではなく、汚れ仕事、雑務の前後又は間に「盗みとる」ものです。したがって、新米ほど、気の遠くなるような「労働時間」となります。これは若い職人にとっては、投資時間なのです。一流になるためにコツコツ努力するプロセスです。この時期に36協定の限度時間があるので、月間45時間で残業は切り上げて下さい、ということになれば、若い職人にとっては「職人として一人前になるのはあきらめなさい」といっているようなものです。

でも、職人を使う経営者にも最低これは管理しないとリスクがあるというラインもあります。それは「健康問題」です。使用者には労働者の安全配慮義務がつきまといます。本当は月間80時間を超えないように残業を管理して下さいというべき(月間80時間というのは過労死基準)ですが、職人の世界ではこれもすべてオーバーしてしまう現状があります。また、タイムカード管理といっても、中抜けすることもあれば、途中で寝ることもあったり、労働時間の実態を反映しているとは言い難い。

そこで、以下のような管理となります。

(1)厨房や工房に来たか、来ていないかについて始業時刻は把握する。

(2)深夜労働の実態(回数・時間)を把握・管理する。

(3)親方・料理長に弟子の体調管理をしっかりと御願いしておく。

(4)全くのOFF(休日)を設定し、把握・管理する。

(5)健康診断を年2回行う(深夜帯の勤務が常態化しているため)。

(6)持病のある中高年層は指導書・誓約書等で自分の健康管理に留意してもらうよう一筆とる。

(7)万一のときの労災上乗せ保険等に入っておく。

つまり、弁護士さんには”弁護士自治”が大幅に認められているように、職人の世界でも

“職人自治”は認めるが、少なくとも週1日は休み、夜は10時までには帰宅する、若手であっても体調が悪ければ無理を強いないという衛生方針について職人のTOPと合意して、その体制をつくることが肝要です。

最近は、若くて入社間の無い人で、本人は真面目でやる気はあるが、うつ病になって出社しなくなり、親御さんから「会社のせいで病気になった」「人生を狂わせた」などと大きなクレームをいってくる場合も多発していますので、職人の世界も従来通りにはいかないようです。

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