粗利益経営を前提に人件費計画を立てる 2022 10/03 労働法務 2021年11月18日2022年10月3日 粗利益重視の経営をする 一般的な経営計画は売上と利益目標が最も重視され、粗利目標は付随的なものであることが多い。人口減少・総需要減少・労務コスト上昇下で最も重視されるのは粗利益である。つまり、粗利益が低くなる商品・サービスからは撤退、又は適正な粗利益が出るよう値決めをしなおす。 キーエンスの創業者の現会長は、「粗利益が8割を下回る製品は売らない」という方針を貫いているという。現に2021年4~9月期の粗利益率は83%である。 さらに顧客とキーエンスで価値を折半する考え方があるという。具体的には顧客に100万円の価値を与える製品を売価50万円で売る。そして、その原価は10万円、粗利益40万円という鉄の掟があるということだ。 これには価格競争に巻き込まれない差別化戦略無くして実行できないが、設備産業でもないのに日本で最も労働生産性の高い会社が営業利益で追っておらず、粗利益を最重要視して経営を行っているという事実は注目に値する。 端的に言えば、「粗利益だけを見る」のだ。これが労働生産性を向上させる1丁目1番地である。粗利益が低いのものはやめてしまう。もう、そこに労務コストをかける余地がない。 労働生産性目標が必要 もちろん、粗利益目標は1人当たり粗利益目標と連動したものでなくてはならない。キーエンスの場合、労働分配率は12%だという。粗利益40万円なら、4.8万円が人件費となる。単純計算でいえば、平均年収が2000万円とすれば、1人当たり年間1億6千万円程度の粗利益を稼いでいることになる。 では、一般的な中小企業は1人当たり粗利益はいくらを目指せばよいか。設備産業でなくとも最低1000万円以上、できれば1500万円だと思う。1000万円以上ないと昇給らしい昇給、賞与らしい賞与がまず難しくなっていく。 これは従来の工賃で稼ぐビジネスでは成り立たない。私自身もこれが悩みの種である。でも、キーエンスまでは行かずとも、まず粗利益の自社の絶対基準を持ちたい。 人件費計画をたてる 上記の考え方を大前提にして、人件費計画を立てる。売上を毎年〇%ずつ上げる、営業利益を毎年〇%ずつあげる、このような計画では社員の給与を上げることは実現できない。あくまで社員の処遇を具体的にどのように向上させるかという具体策つまり以下の決定が必要になる。 ・5年後の1人当たりの付加価値目標・5年間の減員・増員計画・5年間の昇給率・5年間の労務構成(正社員・パート等の比率)・5年間の人件費係数(月給〇円の社員を雇ったら、月給の何倍のコストがかかるかの指標) これは既存の社員の処遇をどのように改善するかの具体的な指標となる。 これをエクセルで何度も何度もシミュレーションする。 (計画作成時の基本ポイント) ①人員数を減らしながら1人当たりの年収をあげる。 ②正社員の昇給率を決める。 ③パートを従来のパートと考えない。正社員並みの仕事をしてもらう。 ④昇給額(率)は相場のチョイ上、粗利益額を高めながら賞与増を中心に仕組む。 ⑤35歳未満の給与・女性の給与の是正>賞与>退職金>福利厚生という競争力を高めるための人件費の優先順位を間違えない。 ⑥70歳までの雇用時代に退職金・401Kは加算すべきでない。 ⑦安易に定年を延長しない。 数字で考えると超・高労働生産性経営がいかに差し迫った問題かと思い知らされる。社員の給与を上げるためにはもう「余計なこと」はできない。「どうやったら粗利益があがるか」それに資することはやる、資さないことはたたむ、削る、変える。 超・高労働生産性社会においては売上・営業利益はあくまで「サブ指標」なのだ。 労働法務