労働時間実務の大転換に備えよう② 2022 10/03 労働法務 2018年8月3日2022年10月3日 政府は2027年には年間の年次有給休暇(以下、年休)の取得率を7割にすることを目指している。厚生労働省はかねてより長時間労働撲滅の切り札として年休の促進に熱心であった。現在の取得率は5割をきっている。ご存じのとおり、欧州では年休は100%取得することが当然なので、「取得率」という言葉さえない。日本が目指しているのは欧州だ、具体的にいえば、ドイツがお好きのようだ。 2018年7月に国会で成立した改正労基法では、年休の日数が10日以上ある者には付与日から1年以内に5日については会社が時季を指定して与えなければならないとされた。「10日以上ある者」であるから、その要件にあてはまればパート・アルバイトなども同様に適用となる。違反して起訴されて有罪になれば30万円以下の罰金だという。当該法律は2018年4月1日施行である。 目次会社は年休を与える義務を負う。一方、従業員は年休を取得する権利があるのみで、義務を負っていない。 たとえば、こんな例がある。会社の時季の指定により、5日のうち3日間は従業員が年休を取得した。 しかし、2日間は1年以内に取得できなかった。会社は従業員にお願いして残りの2日を取得するように促したが、従業員には取得する義務がないので応じなかった。 このような場合、どうなるか。厚生労働省の見解では、このような場合も罰則の対象だという。 さらに、現在、厚生労働省の審議会では、年休の消滅時効を2年から5年にすること議論している。民本の改正が行われ、債権は原則として主観的起算点から5年、客観的起算点から10年で時効消滅することになった。短期消滅時効(1年)が廃止されたのだ。 だから、労働基準法で定める賃金債権の消滅時効2年が民法で定める債権の消滅時効5年と矛盾する。これは2020年4月あたりを目標に改正法が実施されると言われている。 したがって、改正労基法を無視して年5日を取得させなかったとしたら、最高20日×5年=100日退職時に貯まっていることになる。退職時の「買取り」が頻発し、当面は事実上の「退職加算金」となるに違いない。 まさに、会社が従業員に「お願い」して年休を消化してもらう時代になったのだ。日本はドイツではなく、観光が売りの財政破綻国=ギリシャやイタリアになるのではないかと思われる。 労働法務