これではダメだ!役員退職金制度の失敗

ありがちなこんな例

A社は社員25名の卸売業。オーナーである現社長(76歳)、非オーナーである専務(68歳)、常務(62歳)がいる。専務は5年前に専務に、常務は3年前に常務に、専務・常務ともに若い頃から役員になったので平(ひら)の役員時代も含めると在任期間はそれぞれ32年、30年だ。  

A社長は顧問の税理士から「役員退職金を貰うためには役員退職金規程が必要ですので、規程をつくってください」と指導を受けた。A社は、A社長が26歳のときに立ち上げた会社で、A社長のワンマン経営で利益を上げてきた。A社長は、退職金は少なくとも2億円以上は貰いたいと考えている。そこでいつも商業登記をお願いしている司法書士からひな形をもらい、それをそのまま活用した。その規程の内容はこんな感じだった。  

退職慰労金の額=退職時の報酬月額×役員在任年数×功績倍率
功績倍率

社長 3.0倍
専務 2.8倍
常務 2.6倍

上記の規程を作成した後にA社長は退任して、2億5千万円の退職金をもらった。同時にA社は後継者がいないということで同業のB社に会社を売却されたのだ。

専務、常務はそのまま専務、常務として残ったが、問題となったのは退職金だった。役員退職金規程どおりに計算すると、専務の退職金は1億円超、常務の退職金は7,800万円に上った。B社の社長はとてもこのような金額は払えないとして、役員退職金規程を廃止し、払ったとしてもそれぞれ3,000万円、2,000万円が限度だ、コロナの影響もあるのだからこれも保証されないと両名に言い放った。

その1ヶ月後、専務・常務の代理人弁護士から「期待権侵害である」として内容証明が送られてきた。  

オーナーに対する退職金と非オーナーに対する退職金を合理的に区別すべし

税務署の顔だけでみて、役員退職金規程が作成されている例が多い。確かに役員退職金が否認されるとその金銭リスクは大きい。お手盛りでないかどうか、過大でないかどうかについて慎重になるがゆえに、上記のような「最終報酬月額」「在任年数」「功績倍率」の3要素で決定する方式を採用する。しかし、その役員退職金規程を作成したことで、その後の非オーナーに対する退職金にどのような影響が出るのかを検討されないケースが後を絶たない。

オーナーの退職金には①相続税の節税、②相続税の納税資金の捻出、③法人税の節税、などの大切なニーズがある。つまり、事業承継に不可欠なのだ。また、オーナー会社はオーナーがすべての責任を負う。個人保証をし、逃げも隠れもできないのだ。非オーナーと責任の大きさが違う。同列には比べられない。

しかし、会社法も税法も、オーナーだからといって退職金が高いというロジックは通らない。逆にオーナーだけ恣意的に高くすると、「お手盛りですね」とバッサリと否認されることになる。

だから、オーナー役員と非オーナー役員とは合理的に区別した報酬を支給しなくてはならない。つまり、しっかりと別のストーリー・ロジックをつくって、オーナーという理屈ではなく、上記の例で規程を作成するのであれば、オーナー社長2億円、非オーナー専務3,000万円、非オーナー常務2,000万円、が算出される規程を作成及び運用をしておかなければならないといえる。さもなければ、オフィシャルになった役員退職金額を減額するのは困難を伴う。

もちろん、規程作成・運用の難易度は格段に上がる。だから、できれば従業員役員の出世の上限は執行役員や使用人兼務役員というのが、オーナー会社では妥当なのだ。

福田賃金管理事務所は、オーナー会社の役員報酬・役員退職金改革を得意としています。   ぜひ、お問い合わせください。
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