賞与原資を考える、適正な給与と賞与の割合はあるのか?

日本の賞与の考え方の特徴

日本の賞与の考え方の特徴 一定レベルの企業様の給与問題に取り組んでいると、給与と賞与の”割合”について「わが社はいかにあるべきか?」が議論になることがある。コロナ禍で苦戦せざるを得ない会社がある一方で、こっそり儲かっている会社は実は少なくない。

一般的に賞与は「業績連動」の報酬であると言われる。したがって、その支給基準も態様も様々である。海外にはこのようないわゆる業績連動の賞与はない。インセンティブ(歩合給)やクリスマスボーナス(寸志程度)などがあるのみで、日本のように月給の何ヵ月分もあり、労働者がそれを生活給に組み入れている国はないだろう。

日本の賞与は実質的には業績連動ではない。これは日本型雇用システムが終身雇用であり、それをもとにした賃金制度であることと深く結びついている。私は、賞与は「労務の対価の一部を業績に応じて後払いする準固定給」であると考える。

終身雇用の下では、企業業績が悪化しても簡単に解雇することはできない。さらに基本給などの固定給は業績が悪化しても特段の事由がない限り減額することもできない。故に、一部を業績に応じて変動可能な「賞与」として支給することが重視されることになる。平成15年3月までは月給にかかる社会保険料より、賞与にかかる社会保険料が著しく安かったことも、賞与重視の傾向が強まった要因ではないかと思われる(ちなみに年収水準はその頃と全く変わっていない)。  

年収に占める賞与の割合

大手企業はこんな感じだ。1年単位で賃金を固定払いの基本賃金(基本給+役職手当)と変動しうる賞与5ヵ月分に分ける。17ヵ月分が標準。賞与は年収の30%程度。業績が悪化した場合は5ヵ月分がせいぜい3ヵ月分になる程度に減額される(年収の12%程度の減額)。

中堅企業は16ヵ月分が標準(賞与は年収の25%程度)、中小企業は14ヵ月~15ヵ月分が標準(賞与は年収の14%~20%程度)といった感じである。中小企業は元々月例賃金が高くないので、14ヵ月分つまり年間2ヵ月分程度(夏1ヵ月、冬1ヵ月)は特段の事情がない限り支給したいものだ。  

人件費計画と賞与

貴社は平均年収いくらの会社になるつもりですか?
その年収の中で賞与の割合をどう考えますか?

この問いは中長期の人件費計画をたてるときに欠かすことができない。考慮要素はわが社の給与の昇給率、人員数、労務構成(正規・非正規の割合)に加えて、年収に占める賞与比率である。中小企業の場合、まず給与水準について世間相場の10%高を達成したら、次は賞与の割合を増やしていくのが正解である。高収益の会社は大手並みに5ヵ月分出すことに注力することになる。

賞与は儲かったら出すものではなく、あくまで人件費計画に仕組んで支給する準固定給(減らせる固定給)だ。  

たまに賞与を5ヵ月分支給して、決算賞与を2ヵ月分支給できる会社にお目にかかる。そうすると7ヵ月分の賞与となって、賞与の割合が高すぎないかと言われることがある。私はそれが問題だとは思わない。あくまで「17ヵ月分」の年収が標準報酬であって、たまたま追加でもらえたのがプラス2ヵ月分の決算賞与に過ぎないからだ。

「治にいて乱を忘れず」。準固定給だとしても賞与は支払いが約束されたものではないので、バッサリとカットができる。マサカの坂の場合、5ヵ月分がゼロもありえる。マサカの時にゼロにできる余地、これが大切だ。

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