育児休業で店舗がまわらなくなる!?改正育児介護休業法

男性の育休取得が常態化する?! 改正育児介護休業法が令和4年4月1日、同年10月1日に段階的に施行されます。この改正の趣旨はズバリ「男性の育児休業の取得促進」です。女性の育児休業取得率は83.0%に対して、男性の取得率は7.48%にとどまることが問題視されていることによります。日本は世界で最も充実した制度ですが、「育休を取りづらい」という雰囲気を払拭しようとしています。  

会社に堂々と「育休とります!」と言いやすくする

改正のポイントの一つ目は、「育休を取得します」と会社・上司に言いやすくすることです。男女問わず、子どもが生まれる社員に対して、個別の周知や意向確認が義務付けられます。今までは社員から申し出がなければ、育休を取得させる義務はありませんでした。しかし、「育休という制度は〇〇で、メリットは✖✖で、あなたにはその権利があるので、取得しますか?」という意向を確認する義務を負うことになります。これにより、会社や上司に嫌な顔をされず、「育休を取得します」と言いやすくなるというわけです。もちろん、この意向確認について、「オマエはまさか育休取得なんて考えてないよな!」という育休取得を控えさせるような形での実施は禁止されますので注意しましょう。
(令和4年4月1日より施行)  

柔軟に気軽に育休がとれるようにする

ポイントの二つ目は、育休を柔軟に取得できるようになる制度変更です。新制度では、男性が子供の出生後8週間以内に取得できる4週間以内の育児休業(出生時育児休業)というものが設けられました。出生時育児休業の申出期限は現行制度より遅く、休業の2週間前まで、とされます。また、出生時育児休業の期間中に2回に分割して取得できることになっています。改正により現行制度上も2回分割取得が可能となりますので、合わせると1歳までに最大4回取得できるというわけです。
(令和4年10月1日より施行)  

今後、男女を問わず育休取得の権利主張が激しくなる

上記の法改正に伴い、これからドンドン、マスコミ報道もされます。今後、男女を問わず、育休取得のみならず、復職時の時短を含めた働き方の要望が激しく主張されるでしょう。これは今回の改正の内容が影響を与えるというよりも、育休に対する考え方が変わるのです。男女を問わず、国がこれだけ奨励しているのだから、自分たちの望むように育休が取れて当たり前だ、自分たちの権利だ、という向きはますます強まるに違いありません。

ここで特に困るのは飲食・小売などの店舗ビジネスだと思います。ただでさえ、コロナ禍、パート・アルバイトの求人難でギリギリの人数で運営しています。そこに雇用形態を問わず、かつ男性も女性もかなり自由に自分意向を言い始めると、店舗の人繰りに困ってしまうのです。  

「どこまで認めるべきなのだろう?」という事案が頻発する!

余裕のある会社は「良きに計らえ」というスタンスで、従業員の権利主張をそのまま受け入れればいいでしょう。しかし、中小零細企業・店舗ビジネスの会社はそうはいかない事情が多々あるのです。

実際にあった例をあげてみます。小売店舗に勤務していた女性(Aさん)は育休を取得しました(結局、保育園に入れないとして2年間取得)。社内結婚でしたので、Aさんの夫(Bさん)も別の店舗に勤務していました。Bさんも出産後3ヵ月だけ育休をAさんと同時に取得しました。

Aさんは育休復帰後、時短勤務を希望しました。1日8時間→6時間です。保育園の送り迎えがありますので、16時には帰りたいと言います。また、土日は保育園が休みなので土日はシフトに入れないという要望でした。通常土日が最も人が足りません。

さらにAさんは原職復帰の店舗は家から約80分かかるので、約40分で通える近場の店舗に異動したいと言ってきました。

Aさんが会社との面談時に持っていた労働局のパンフレットには「STOP!マタハラ」と記載されていました。  

会社も法的な理論武装をすべし!

会社にも権利があります。法的に義務でもないことを強いられるのは使用者にとって権利侵害といえます。物事には公平や正義のバランスがあるのです。昨今それが行き過ぎることがあります。

育児介護休業法には複数の努力義務が課せられていますが、あくまで努力義務で使用者が強制されるものではありません。特に問題のある社員から権利ばかり主張されても会社は困ってしまいます。

使用者が留意すべきは育児介護休業法10条の「不利益取扱いの禁止」条項です。いわゆるマタハラ条項です。労働者が育児休業の申し出をし、または育児休業をしたことを理由として、事業主が当該労働者に対して解雇その他不利益取扱いをすることを禁じるものです。これは法的義務かつ強行法規なので、不利益取扱いは同条違反として違法無効となりますので注意が必要です。

上記の事例でも何が確固たる従業員の権利なのか、どこに使用者の裁量があるのか、何が不利益取扱いの禁止にあたるのかの判断がポイントとなるわけです。

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