定額残業代を廃止したい・減らしたい会社の対応策

定額残業代を廃止したい・減らしたい

定額残業代とは残業の有無・時間にかかわらず定額で残業代を支払う制度。もちろん、実際の残業代が定額分を超過した場合はその超過分を支払うこととなる。

いま、この定額残業代を減らしたい・廃止したいという相談が多い。働き方改革で実際の残業時間が減った、コロナの影響でムダな残業代を払いたくない、という風潮だ。

また、月間60時間~80時間などの過大な定額残業代を払っていて、時代の流れに応じて見直したいというニーズも高い。

残業がなくなった、少なくなったのだから、その分、定額残業代を減らすのは当たり前だと経営者は思うかもしれない。しかし、従業員からすれば、定額残業代は残業をやってもやらなくてももらえていた賃金なので、その減額は相当な反発がある。生活給である毎月の固定給が減るのはとても辛い。(総額は維持して、基本賃金部分を底上げ、定額残業代部分を減額するのは、むしろ従業員有利なので何ら問題ないのは言うまでもない。以下はこの対応をしない場合のケース。)  

定額残業代廃止は不利益変更

定額残業代を減らす・廃止する措置は、残業代の最低保証額を引き下げることになるので「労働条件の不利益変更」(労契法9条)にあたる。つまり、原則として「合意」がいる。  

でも、合意があればOK、は誤り

しかし、この合意が厄介で、「契約書」「合意書」が存在したとしても、第三者がみて納得できるストーリー、客観的な背景事情、つまり、合意をするだろうという根拠がないと、「労働者が自由な意思に基づいてされた」合意とは認めてもらえない(山梨県民信用組合事件 最高裁H28年2月19日)。

たとえば、基本給25万円、定額残業代5万円、合計30万円の社員との合意により、基本給25万円になった。何ら客観的な背景事情はなく、毎月の実際の残業はほとんどないので、基本給25万円が支払われるのみの状態であれば、その合意は無効とされる可能性が大ということだ。言い換えれば、そんな自分に損な一方的な不利益変更は、特別な理由がなければ、通常の人間なら自由な意思でサインしないと思われるということだ。もちろん、残業が恒常的に30時間ほどあって、定額残業代程度の残業代が確保されていれば、大きな問題は生じないとはいえる。  

合意に向けて十分な説明、経過措置できれば代償措置

変更が「合理なもの」があれば、不利益変更も可能なのだが(労契法10条)、この合理性が個別事情にかなり左右され、難しい。合理性の内容としては、会社の必要性の程度、社員の被る不利益の程度、説明や交渉の経緯、不利益にかわる代償措置、激変緩和措置・経過措置、その他社会一般的な相場感などがあげられる。会社としてはこれらを上手に組み合わせるほか道はないということになる。

つまり、損することばかり、何ら得がない、夢も希望もないような変更は、人間は合意しない。だから、従業員側の何かメリットをつくる。

たとえば、上記のように基本給25万円、定額残業代5万円のケースで、5万円をすべて外すのではなく、定額残業代は廃止するものの、基本給27万円にして基礎賃金をあげるなどの方向性は有益な取り組みになりえる。→でも総額ダウンは、結局文句が出ます・・・。  

リスクのない経営施策はない

士業の先生は、リスクは十分に説明してくれる。でも、リスクのない不利益変更はない。ポイントは9割以上(←法律ではありません)の社員が「社長が言うのはもっともなことだ」「いまは苦しいが頑張ろう」「経営が復活したら年収をきっと上げてくれるはずだ」と期待があり、信頼関係が崩れない実行案かどうかが問われる(とっても難しいですが)。もっとも、不利益変更で捻出される経営改善額などは、たかが知れているので、人件費の再分配が主目的ではなく人件費そのものを削減したい場合は、人員数を減らすしかなくなる。くれぐれも、不利益変更だけで人件費を削減しようなどとは思ってはいけない。そのような会社は逆に、今までは隠れていたサービス残業分を今後は堂々と積極的に主張されることになり、かえって残業代が高くついた、など笑えない話にもなりかねない。

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