2024年 労務事情を振り返る

 今年も終わりを迎えます。御蔭様で本当に良いご縁に恵まれ、日本全国の中堅・中小企業様のご支援をさせていただく機会を得ました。

 私がこの世界に入ったのはデフレ不況真っ只中で、金融機関を含め倒産の嵐でした。「勝ち組・負け組・消滅組」に分かれると叫ばれていました。

 いま、インフレ時代で、来年以降、労働力人口の本格的な減少を体験することとなります。令和・人口減少・インフレ時代風に置き換えると、「人が採れる組・人が採れない組・廃業/M&A組」に分かれると思っています。

1 外国人雇用の相談が急増、でも戦力化に苦労

 特に建設業・現業職・医療介護職の人手が全く足らず、見通しもたたないことが鮮明になってきました。地方の製造業もしかりです。このような会社の多くが、技能実習生、特定技能1号・2号などが外国人採用を積極的に行いはじめました。外国人雇用は安いわけではなく、本当は日本人(若ければ若いほどいい)がいいのですが、もう望むべくもないのです。

 外国人が人手不足の妙手になりうるかというと、外国人の労務管理も極めて難しいと感じてます。日本語のカベはもちろんこと、少しでも賃金が高い会社があると一斉に退職することも、抵抗がありません。

 ペンション経営をしているP社があります。P社はリゾート地にありますので若い労働力が足りません。そこで、きれいな住居・福利厚生を用意して、フィリピン人を数十人雇用することにしました。みんなとても活気があり楽しそうに働いていました。

 ところが、3年後、数十人いたフィリピン人は一斉に退職して他社にいったのです。それもほぼ同時期です。日本人にはない発想です。

2 賃上げに脱落する会社が急増する見込み

 弊社は、無料で全国の中小企業様の賃金診断サービスを行っています。そこで痛感することは、賃上げができる「積極企業」と、賃上げができない「現状維持(つまり後退)企業」が、鮮明になりつつあることです。賃上げに積極的な中小企業は、実は大手の賃上げ率に負けない賃上げをやってのけているのです。でも、大半は、石破総理のいう「2020年代に最低賃金全国平均1,500円」に代表される賃上げの流れについていけないと思われます。昨年より中堅企業の育成を重視しはじめた政府の本音は、「賃上げについてこれない力のない会社は潰れていったらいい」なのです。2023年、2024年はなんとかなりましたが、継続的な賃上げ(毎年5~6%)となれば話は別なのです。

3 社員の高齢化が著しい会社が急増

 上記の賃上げができない企業とは、社員の平均年齢40代後半から50代、社長の年齢は70歳以上、若手を採用しても1年以内にみんな辞め、60代~70代でも「この人がいないと仕事がまわらない」という組織体制であることも多いです。高齢者活用といえば聞こえはいいですが、事前対応不足の10年後は存続しえない体制です。

 社員の平均年齢と業績には高い相関関係があります。60歳定年再雇用者を除いて、社員の平均年齢は40歳以下に死守したいです。

4 20代・30代の社員がとても強気で驚く

 K社は建設会社です。30代半ばの1級施行管理技術者の資格を持ったエース級の人材から社長に、このような直訴がありました。

 「社長、私の今の市場価値ってご存知なんですかね?」

 市場価値とは、賃金価値のことと言っていいでしょう。要するに、賃金が低いと、面と向かって社長に言っているのです。昨今は、●●リーチ、●●●Xなど、ダイレクトリクルーティングサービス花盛りで、若手の争奪線が繰り広げられています。20代・30代のスマホには、「あなたのキャリアに興味を持って連絡をさせていただいております。ぜひ、一度、オンラインで結構ですので御面談させていただけませんか。」というメールが1日に何通も届いているのです。

 また、昨今は、最低賃金が上がる⇒初任給が上がる⇒在籍者の若手の賃金が1~2万円能力実績に関係なく上がる、という状況です。

 さらに、客観的な誰でも納得できるような明確な人事賃金制度がないと、若手が辞めますよ、と、中小企業の社長は、人事コンサルタントの営業でも脅されています。また、人材紹介会社・求人募集のエージェントからも、「若手の応募がないのは貴社の給与が低い」といわれつづけているのです。

 若手の気分を損ねないように、辞めないように、どこも気を使っているようにみえます。

5 M&Aでババをひく

 昨今のM&Aは後継者不在についで、人手不足・廃業を起点としたものが増えてきたように感じています。ある事業を拡大したいので、その事業に従事する人を確保するために、買収します。また、人が採れず事業の存続もままならない、後継者もいないので廃業を考えている取引先を失うのは困るので、買収するなどもケースも増えてきました。

 建設関連会社のX社は、ある建設会社を買収しました。従業員は12人でした。エース級の人材が残る、という前オーナーとの確約のもと買収が実行されました。ところが、エース級の人材は半年もたたずにライバル会社に転職してしまったのです。そうなると、五月雨式に従業員がやめていき、全員退職したのです。なんのためにM&Aをしたのかわかりません。

 設計会社のY社も、人材確保型のM&Aで特殊な製品の設計会社A社を買収しました。社員はパートを含め20人いました。会社は引き止めたのですが、常務と開発部長が買収後1年も経過しないうちに退職しました。前オーナーも1年後に退任ということになっていました。
 その後、A社は急激な業績悪化に陥り、3年後は赤字になり、資金繰りに苦労することになりました。A社は借入金が過大で、金融機関から勧められた案件でした。
 買収したY社(親会社)も幹部人材不足で、A社の立て直しには手がまわりませんでした。中小企業というのはキーマンで業績を保っているのですから、社長、常務、部長が退職したら会社が一気にガタガタになるのは当たり前なのです。

 私は、後継者不在、事業の先行きをふまえ、クライアント企業がM&Aで会社を売るのは大賛成、しかし、買うのは特段の事情がない限り反対しています。中小企業には、買った会社を再建すべく、管理統括できる実力人材は余分にはいないのです(大手も同じですが)。

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