昭和30年代、金利は6~8%
昭和30年代、定期預金の金利は6~8%でした。退職金の積立もこの利回り、少なくとも5.5%以上で考えられていました。つまり、毎月1万円を40年間積立てれば、1,000万円は軽く超えるのです。この頃、人手不足で中小企業はどこも求人に困っていました。ですので、会社の魅力を打ち出すために、退職金制度は「やらなきゃ損」という機運があったはずです。
しかし、現在は超低金利。今後、金利は絶対に上がりません。もう日銀は金利を上げられないのです。金利を上げたらその利払いが多額になり、国家予算をたてられません。また、金利を上げたら国債の評価損が莫大になり、国債を多額に保有する日銀の債務超過はさらに拡大し、多くの金融機関のBSが毀損します。金融面で日本国は信認を失い、通貨危機・国家財政破綻さえありえます。
平成20年代の退職金制度改革ブーム
平成19年~平成20年代初頭、退職金制度改革ブームがありました。平成24年3月31日をもって、高金利(5.5%以上)を前提とした適格退職年金制度の廃止にともなって、多くの企業が退職金制度の見直しを行いました。この頃、低金利・デフレ真っ只中です。成果主義賃金ブームは終わりにきていましたが、まだまだ人件費・賃金を抑制するかということにどこも頭を悩ませていたのです。
基本給連動は公務員の制度
現在の基本給連動の退職金が一気に民間企業に広まったのは昭和30年代後半です。この基本給連動の退職金の原型は、公務員の退職金制度です。この頃、公務員出身の賃金コンサルタントが、等級・号俸の賃金制度とともに、「退職手当=勤続年数×俸給(基本給)×支給率」という退職金制度を世の中に広めました。さすがに中小企業にとって公務員の賃金制度はもう捨て去らざるをえないので同様の制度をやっているところは皆無ですが、退職金はまだ残っています。
現在でも基本給連動の退職金は約半数
現在、すでに多くの会社は「基本給×勤務年数別係数」といった基本給連動の退職金から、ポイント制退職金制度などの基本給「非」連動の退職金に変更しました。しかし、まだまだ多くの会社が「基本給×勤務年数別係数」といった基本給連動の退職金を採用しています。私は、日本全国、実に多くの退職金制度を拝見する立場にありますが、まだ中小企業の約半分近くは基本給連動の退職金制度が継続されていると見ています。
今後、基本給がどんどん上がる
石破総理は2020年前半に最低賃金1,500円以上と表明していますが、これは基本給の増加を意味します。中卒初任給が25万円程度になるのですから、大卒初任給は30万円近くになります。そこから毎年昇給するのですから、退職時は基本給40万円以上というのは普通に発生するはず。從來のデフレ・賃下げ時代であったら、28万円~30万円で基本給のゴールを迎えたのはずなのですが、基本給連動の退職金を放置していると、経営者が知らない間に、退職金が3割増し、4割増しになるのです。
退職金は廃止すべきか?
退職金制度を廃止したい、廃止すべきかというご相談を最近よく受けます。私は、退職一時金制度を廃止したり、一時金を廃止して401Kに移行することは反対しています。401Kは、変な辞め方をした場合や在職中の功労を反映できず、労務管理に役立たないからです。退職一時金は一応ある程度に残したほうが良いのです。ただし、基本給連動の退職金制度はやめてください、と言っています。今後、かなりのコストアップにつながるからです。上場企業でない限り、退職給付債務の決算書への計上は任意です。したがって、中小企業の社長、経理部長、顧問税理士・会計士・社労士も、この退職金の簿外債務(退職給付債務)を認識していません。まずは、現在の自己都合退職金と会社都合退職金、将来予想退職金を計算し、このまま毎年4%~5%の賃上げをしたうえで、退職金を払っていけるのかを検証すべきなのです。