人手不足・賃上げ時代にこそ役職手当を見直そう

私は役職者や店長になりたくありません

 現在27歳以下のZ世代の人は、一見、与えられた仕事も真面目にこなす、いい子である。しかし、理不尽と感じること、不利益に感じることに関しては敏感で、すっと距離をおく。平均を重視し、目指すは平均よりやや上でコスパのいいポジション。責任やリスクをとって、上にも下にも飛び出ることに恐怖を感じる。

 このような傾向があり、出世を望まない、役職者になりたくない、店長になりたくないという人が、特に中小企業に激増している。

だから専門職に登用?

 このような「若手」も、やがて年をとる。あっという間に40歳を超える。役職者や店長になりたくないという要望なので、給与アップは緩慢になる。しかし、給与が上がらないと不満を言うのだ。部長等も、いま辞められたら困る、やる気を落とされたら困るので、このようなベテラン社員を「専門職」として登用し、プライドと処遇を改善することを、社長に提案してくる。人手不足なので、このような要望はいまかなり出ている。

 しかしながら、その「専門職候補」は、高度な専門技術で管理職と同等の付加価値をもたらす市場価値の高いプロというより、特定の職務に精通していて、何も言わなくても1人前の仕事をする、現場をまわす管理者にとって辞められたら困る人にすぎないのだ。

 このような「なんちゃって専門職」が、役職者と同等かそれに近い処遇になっていくと何が起こるか。もっと、「私は役職者になりません」という人が増えるだろう。また、役職者からは「こんなに負荷がかかっているのになぜ部下なしで、責任ももたずに好きなことをやっていて私達と給与が変わらないのか」と不満を募らせるだろう。

役職手当を見直そう

 最低賃金が上がり、初任給が上がり、若手の価値のインフレ化により、若年層を中心に基本給がドンドン上がっている。若手傾斜配分的ベースアップが行われているのだ。その結果、役職者と新卒との給与格差は毎年減少の一途をたどっている。いま、役職者はあこがれの持てるポジションではないからこそ、その苦労に見合う役職手当を設定すべき、と考える。

 役職者はいま本当にしんどい。

 とにかく職場に人が足らない。若手は「普通の職場環境」「普通の待遇」「普通の上司」を想定しているが、その「普通」のレベルが天国的なので、すぐ文句をいう。退職代行サービスを使って辞めていく。職場には育児休業者が出る、最近は男性も当然のように育休をとる。女性の育児短時間勤務も小学生の子を持つ人にまで広がっている。そうすると、子どものいない社員にしわ寄せがいって軋轢が生じて、そちらから文句が出る。70代以上の高齢者、元社員の業務委託者、タイミーでやってきたスポットワーカー。法的な雇用義務を果たすための障がい者雇用の方。うつ病で休職して復帰したがパフォーマンスの上がらない人、などなど、要するにマネジメントの難易度が昭和・平成と比べて、むちゃくちゃ高い。もう、へとへとなのだ。

 だから、その労苦に見合った役職手当を増額していくことが必要だ。

 そこで、注意点は、部長15万円、課長10万円などと一律に設定しないことだ。部下の少ない部長もいれば多い部長もいる。能力のない課長もいれば、エース級の課長もいる。私はいつも、役職手当は幅をもたせて決めなさい、と言っている。

 もし、マネジメントの難易度が高いので課長にしてペケの場合であっても、中小企業は降格はなかなかしづらい。だから、本人にサインをもらって役職手当を減額する。課長は課長のまま据え置くのだ。

 賃上げ・人手不足時代においては、①役職手当手当を増額見直しする、一方で、②役職手当は部下人数、実力に応じて柔軟に決定できるようにする、これが今後のポイントである。

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