中小企業の「息切れ賃金制度」が加速する

新卒初任給、爆上がり

 大手企業・メガバンクの新卒初任給は、もう、所定内賃金だけで20万円後半が相場となってきました。初任給30万円以上も全く珍しくありません。中小企業であっても、大阪・京都は22万円程度が相場となっています。でもこれもすぐに見劣りするようになります。最低賃金が毎年4~5%とあるので、少なくとも初任給は毎年5000円以上アップする計算になります。先月、出版した拙著の帯には「これからは新卒給与25万円の時代!」と書かせていただきました。中小企業であっても、もう新卒初任給25万円というのはその通りなのです。

マラソンを全力で最後まで走れと言われたら・・

 昔、京セラが中堅企業から大企業の階段をひた走っていた頃、当時、社長の稲盛和夫さんが、先頭集団より14キロ離れているから、42.195キロを全力で走ろうということをおっしゃっていたようです。全社一丸で全速力で走っていると、先頭集団を手中にとらえ、そして追い越すことができたといいます。

 いま、中小企業の賃金水準は大手からどんどん引き離されています。この差は益々開いていきます。一昔前(ほんの5~6年くらい前)は、中小企業の初任給20万円、メガバンク20万円程度でした。ところが今は、メガバンクは20万円後半からさらに新卒初任給を引き上げようとしています。

 また、メガバンクは年功序列賃金の権化です。そのメガバンクでさえ、年功賃金を崩しジョブ型賃金システムに移行しようとしているのです。この動きは役所にも広がりつつあります。背景に、驚くほど人が辞める事情があります。

 力のある大手企業・役所が本気で、労働市場で中途採用で優秀層を採りにかかってきます。賃金管理の面で、全力で42.195キロを走るというのは、初任給を大手並に引き上げ、大手並に55歳くらいまで昇給することです。でも、そんな体力は中小企業にはありません。マラソンの途中で倒れてしまいます。

大手についていくのは35歳くらいまで?

 中小企業の場合、主任クラスの一般社員は35歳くらいまではなんとか大手にくらいついていく。無理なら30歳くらいまで頑張ります。40歳を超えたら、昇給らしい昇給は行えなくなっていきます。一定の役職者・キーマンに限り、大手企業の係長や課長クラス並に上げていきます。

 「昇給・ベアが抑制される40歳以降の中高年のモチベーションはどうするか?」

これは出版する際に編集長にもされた質問です。本に書いたのは以下の3つです。

①社内転職を積極的に奨励する(ホワイトカラーからブルーカラー、運転手に)
②独立開業を含め副業を積極的に認める
③社外への転身支援を行う(会社が次の再就職をサポート)

しかし、現実的には人手不足で辞められても困るという向きも多いです。

ですので、④を追加せざるを得ません。

④しぶしぶ、息切れしながら、ハー、ハー言いながら、できる範囲で、ないわけではない少額昇給(又はベア)を行う

しかし、中高年社員からは文句が出ます。20代・30代に比較して自分たちは上がらないからです。特に労組がある会社においては、労働組合の委員長は40代後半から50代の方なので、その声が拡声され社長の耳に聞こえてきます。

これを書いている途中で円安が進み、1ドルが160円に到達しようとしています(2024年6月24日)。「息切れ」どころか、力のない中小企業は本当に倒れてしまうのではないでしょうか。

この「息切れ賃金制度」こそ、私が提唱する「勤続重視ジョブ型」給与制度の序章なのです。

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