経営指標をどこまで社員にオープンにするのか?

クライアント企業の社長から以下の質問をされました。

「先生、社員の給与について、誰がいくら貰っているか公開しようと思っているのですが、どう思われますか?」

この企業は、決算書をPL、BSまでフルオープンにして、顧問税理士さんを招いて年1回は決算説明を行っている徹底ぶりです。

原則として、私は、経営指標についてはオープンにするほうが良いと思っています。なぜなら、会社というのはあるべき姿を、現状を共有して、労使一丸となって働くことが必要だからです。オープンでないと、まるで「資本家」と「労働者階級」のように分断が起こり、社員の不平不満が募ることが多いのです。
たとえば、以下のように思っていたりします。

・儲かっているのにオーナー一族ばかり得をして社員に還元していない
・自部門に根拠のない無理な予算を押し付けてくる
・経費削減とうるさく言っているが、製造三課で高額な3Dプリンターを買わせている
・現場に負担を強いる前に総務経理など間接部門の人数を減らすべき
・営業担当部課長はムダな出張費・交際費を使いまくっている
・売上改善プロジェクトをやる前にもっと他にやることがある
・社長や専務は絶対に何か、隠しているはずだ 等々

ただし、注意点があると考えています。

その① PLの数値だけでよい
 BSは公開してもよくわからないですし、BSが非公開でも実害はないと考えるからです。営業マンの売掛金の回収、棚卸資産の管理などは特別な帳票をつくり管理すれば良いです。

その② 役員報酬は公開しない
 役員報酬はさまざま大人の事情で決まるものです。役員報酬、給与手当、賞与、法定福利費、福利厚生費をまとめて「人件費」と表示します。

その③ 経営が苦しいという危機感を煽る材料にはしない
 社員全員が経営者、CF経営を意識して・・など、本来、「資金繰り」「銀行対応」など社長等の仕事なのに、社員の危機感を煽りすぎる対応はよくありません。こう言っては身も蓋もないのですが、社員が望む情報公開とは明るい部分の情報公開なのです。あまり暗い情報公開、危機感を煽る情報公開は、社員のモチベーションの向上には逆効果です。
 暗い部分を公開するなら、「今はこのように苦しい状況だが、・・・や・・・・などの施策を確実に実行し、必ず給与や賞与をアップなど待遇改善を実現していきます。だから皆さん信じてついてきてほしい。」という未来に向けての、「私が先頭に立つ」という社長の決意がセットにならなければなりません。

 そして、冒頭の「先生、社員の給与について、誰がいくら貰っているか公開しようと思っているのですが、どう思われますか?」についての回答です。これは絶対にやってはいけません。

人間というのは他人と比べると不幸になります。「なぜあいつの給与は俺より高いのか?」「あの課長、仕事ができないくせにあんなにもらっているの?」など不満が醸成させてしまうからです。また、個々の現状の給与金額(特に基本給)は、時に年齢的であったり、勤続的であったり、能力的であったり、入社時の人手不足度合いであったり、人格的なものであったり、先代のお気に入りであったり?、要するに説明のつかないことが多いものです。

また、個々の給与の公開は、本人の同意がない限り、個人情報保護法違反となるでしょう。

理屈では割り切れない場合が多い給与、そして多くの人は私も含めて自分の評価は3割増、それほど成熟した大人ではないのです。

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