パート従業員の低賃金時代終了

最低賃金過去最大の引き上げ率4.3%

ご存知の通り、2023年10月に最低賃金が全国平均で+41円(39円~47円)引き上げられます。過去最大の引き上げ率で4.3%引き上げとなります。インフレ・賃上げ機運は当面継続します。このペースで最低賃金が上がると、2026年には全国平均の最低賃金は1,138円となり、2022年比で+177円となります。さらに、2024年10月より被保険者数51人以上の会社は週20時間以上勤務で社会保険適用、2026年10月には被保険者1人以上で社会保険適用をする案が浮上しています。社会保険適用となると1,138円✕15.42%の社会保険料がかかりますので、実質最低時給1,313円となります。

上記の2026年の時間給1,138円は最低時給なので、労働市場の時間給のボトムは1,200円となるでしょう。都心部では1,500円以上となるはずです。このような賃金事情はすぐそこに来ています。

106万円の壁が焦点になる

パート従業員にはさまざまな年収の壁があります。103万円、106万円、130万円が有名です。これだけ最低賃金が上昇し、時間給が1,500円程度になってくると風景が変わってきます。これにより働き控えとなると、人手不足にも拍車がかかりますので、企業は社会保険に加入しても良質なパート人材の確保を求めるはずです。つまり、週20時間以上勤務の雇用契約です。週20時間以上の雇用契約でかつ、月額8.8万円以上(これが106万円の壁の根拠)であれば、社会保険に本人が加入を余儀なくされます。本人が社会保険に加入であれば、130万円(被扶養者基準)は考慮要素ではなくなります。

力のある企業は、年収106万円を超えて、我が社でもっと働こうと思ってもらう労務施策を次々と打ってくると思われます。具体的には、社会保険に単独で入って社会保険料が控除されたとしても旨味がある、時間給アップの制度設計です。とにかく人が足らないので、「(副業などせずに)わが社で働けば働くほど得だ!」という打ち出しを、大手企業を中心にやってくるはずです。これが賃金相場アップに拍車をかけます。

時間給社員として処遇する

飲食店、小売店、クリーニング店、食品工場など、パート従業員を多く抱える会社の労務コストを試算させていただくことがあります。今までパート従業員をたくさん使って上手に利益を出していた会社ほど、5年後の衝撃的な事実として、時間給アップ、社会保険料増、採用コスト増で、ほとんど利益が吹き飛ぶのです。そして、パート従業員ほど年次有給休暇をしっかりと取得されるものです。「パート従業員は正社員に比べるとまだ安い」、これは事実かもしれませんが、私はパート従業員を従来のパート従業員としての仕事しか求めないのであれば、結局、割高になっていくと考えています。結論的には、これからのパート従業員は補助的・簡易的業務をやるのではなく、「正社員と同等の仕事をする勤務時間の短い人」と位置づけた労務施策を打ち出さないともう無理だということです。

ずっと賃上げ続きます

正社員の賃金も2023年に大幅に上がりましたが、この傾向は来年も継続します。賃金・物価は今後、先に行けばいくほど上がります。30年以上続いたデフレ体験を捨て去る必要があります。客層を絞り、その客層の満足度を更に高めるべく商品・サービスの付加価値を上げる、値上げ対策が必須です。特にパート従業員の賃金を中心に「賃上げ」は凄まじいので、心してかかる必要があります。

今年の2月頃からクライアント企業の社長様と毎日のように財務諸表をにらみながら「賃上げ」について議論をしています。「賃上げ」という言葉が恐ろしく、社長様のストレスも買ってしまい、寝付きが最近悪くなってきました。

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