2023年 中小企業の賃上げ動向

中小企業でも体力のある高収益企業はベースアップを行う

 毎日、賃上げについてご相談をお受けする立場でもあります。そのため、全国からさまざまな生の賃上げ情報を得ることができます。20年以上、人事給与コンサルタントとしてやらせていただいておりますが、今年2023年は特異な動きを感じています。中小企業であっても、体力のある高収益企業はかなり思い切って賃金を上げる動きがあります。

 理由の一つは、物価高です。特に電気代、ガソリン代、食料品代、つまり生活に欠かせない物の値段が上がっており、経営者は心配しているからです。もう一つは人手不足です。こちらも深刻で、とにかく人が足りません。人材を積極的に確保しようと思えば、初任給を上げる必要が生じます。在籍者と逆転現象を起こすわけにもいきませんので、玉突きで在籍者の賃金も上げることになります。パートタイマーもさっぱり応募がありません。

 特に生の声をお聞きして感じるのは、ベースアップ的な賃上げを行う会社が増えていることです。ベースアップとは、個人の査定にかかわらず一律に上げる、又は賃金表を書き換えて底上げすることです。一方で、定期昇給とは通常の査定に基づく昇給です。企業によっては年齢給・勤続給などがあったりします。つまり賃上げとは、ベースアップと定期昇給の合計のことです。

 もちろん、中小企業においては、ベースアップと定期昇給を区別することは一般的ではありません。しかし、今年に限っては、定期昇給に加えて、ベースアップ的な一律昇給を行う動きが間違いなくあるのです。

賃上げ格差と企業の淘汰選別

 すべての中小企業が上記のような対応ができるかと言えば、難しいと言わざるを得ません。城南信用金庫さんの調査によると、調査対象企業の75%程度が賃上げの予定はないと答えているようです。おそらく城南信用金庫さんのクライアントは、従業員数人程度の飲食店などが多いと思われます。

 つまり、「賃上げができて人材を確保できる企業」と「賃上げができずに人材を確保できない企業」に大きく分断されていく、淘汰選別が人事面で生じるということです。

若手の大量離職・確保難に備えよう

 今後、特に20代・30代の引き抜き合戦が始まると思います。テレビCMでもやっているダイレクトリクルーティングという仕組みで、スカウト合戦となるのです。そして、現状の年収より魅力的な年収が提示され、転職すると年収が上がります。

 先日、大手の人事の方とお話をしていると、某大手企業でさえ、30歳前後の人材が足らずに困っているとおっしゃっていました。彼らもスカウトを必死で行っているといいます。

 昔は、企業に直接電話をかけて引き抜くことが行われましたが、今はダイレクトメールが本人に届けられる仕組みが整ってきましたので、簡単に引き抜かれることになります。

上げすぎて後悔するか、上げなさすぎて後悔するか・・・

 一方で、企業としても電気代上昇・物価高・円安などで収益は圧迫されています。非常に難しい局面にあります。一部の大手企業はまだまだ価格転嫁をさせてくれません。

 そのような中で、経営者は悩み苦しみます。しかし、ど真剣な経営努力で結果を出す決意で思い切って賃金を上げる方向へ舵をきってはどうかと思います。

 なぜなら今年は、賃金を思い切って上げずに、若手の大量離職、キーマンの離職を招く後悔のほうが現実となるように思えてならないからです。また、適切な初任給を提示できず、若手の中途採用もままならなくなることも想定されます。

 私は約20年間、デフレ環境で経営指導をしてきましたので、過去の経験がアダにならないように自分を戒めています。

 2023年、「賃上げ」という言葉は、経営者にとって非常にストレスを感じる言葉になりそうです。

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