中小企業こそ「JOB型雇用」に移行する準備をしよう

いま、必要なことは労働移動

ジョブ型雇用は日本に定着しないとか、新卒一括採用、つまり素人を鍛えて一人前にするメンバーシップ型雇用しかないなど、いま、日本の雇用システムの議論が盛んです。

岸田総理は2023年1月4日の記者会見で、「リスキリング(学び直し)の支援や職務給の確立、成長分野への雇用の移動を三位一体で進め構造的な賃上げを実現する」と強調しました。労働移動を円滑にするための指針を今年6月までに策定するとも明らかにしました。

「新しい資本主義」とか「異次元の少子化対策」とか、看板だけ勇ましいだけで中身がないのが通例です。もっとも、岸田総理が言うように、欧米のような「能力も加味した職務給的な賃金の決め方」と「労働移動」は、確かに賃金を引き上げるためには必要です。日本の賃金がなぜ上がらないのかというと、企業が付加価値を上げていないからです。付加価値を上げていない会社に従業員が雇用されているので、賃金が上がるはずはありません。特にコロナの特例融資であるゼロゼロ融資で、たくさんのゾンビ企業が生まれてしまっています。ですから、付加価値と賃金を密接に結びつけるために、生産性の低い会社から高い会社への労働移動が不可欠なのです。

日本版ジョブ型雇用=JOB型雇用

ジョブ型は日本では難しいと盛んに議論されています。しかし、すでにジョブ型の業種業態はたくさんあります。そして、中小企業ほどジョブ型が浸透しているのではないかと思います。高齢化と人手不足で賃金のジョブ型はより一層進むと思われます。

例を挙げてみます。いずれも中小企業(組織)が多い業種です。さらにメンバーシップ型とジョブ型が社内に共存する会社もたくさんあります。

タクシードライバー・配送ドライバー
清掃員
物流のピッキング
医療・介護職
弁護士・税理士・社労士などの士業全般
エステティシャン
一部の歩合制のセールスマン
システムエンジニア
出版編集者
経営コンサルタント
飲食店の店長・調理師
塾講師 等々

ジョブ型とメンバーシップ型雇用の違いや取扱注意点などは、学者の濱口桂一郎先生にお任せし、以下のようなジョブ型を「日本(JAPAN)版のジョブ型=JOB型」というようにします。

「真っ白な素人を鍛えて一人前にする前提はなく、一定の経験者(又は職務センスのありそうな人)を職務重視型で採用し、戦力化する。又は真っ白な素人であっても、入社3年以内に1人前になる前提がある。」

これを日本版のジョブ型を考える際の「JOB型」と定義します。このJOB型雇用を支える中小企業の労務政策の検討項目は以下です。特徴は、「年齢」「家族構成」など従来のメンバーシップ型雇用では重視されていた項目は一切無視することです。

初任給をいくらにするか?
キャリアパスをどうするか?
標準勤務年数をどのくらいにするか?
独立が横行する職種か?
昇給・昇格システムをどうするか?(初任給と同時に業界相場が重要)
賞与をどうするか?
退職金をどうするか?

JOB型雇用成功の秘訣

JOB型にも大きな問題点があります。それは、あなたの会社で働く意味・意義が希薄であれば、優秀な人間から辞めていくことです。たとえば、会社の理念・価値観に共感できるなど、会社に残るメリットが必要です。単にJOB型を導入するだけでは、「転職組」がどんどん発生するだけです。その典型が中国です。3年勤務していればベテランと呼ばれたりします。ゼニカネが良ければ極めてドライにサッサと他へ移ります。

人間関係が素晴らしいなども中小企業の強みです。また、高度プロフェッショナルのJOB型であれば、その会社・組織に所属することで、その会社独自の組織能力がテコとなって、自分の力を青天井に発揮でき、物心両面の満足を得られると確信したときだけです。

中小企業の場合、経営者の理念・価値観、会社のビジョンにかける本気度は、メンバーシップ型でもJOB型でも欠かせない要素といえます。

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