中小企業に「専門職制度」は必要か?

専門職制度の実態

専門職制度とは、特定の分野で専門的能力を持った社員を管理職と同等に評価する仕組みのことです。しかし、中堅・中小企業は技術の会社でもない限り、専門職とは以下のような人たちが該当することが多くあります。

【その1】
管理職にはなれかったが(又は管理職にするほどでもないが)、特定の業務に精通していて、退職されたり、士気を損なうと、会社にとって損失な人

【その2】
役職定年などで、管理職を降格となった人

【その3】
真のプロフェッショナル専門職。会社と同等以上の付加価値を会社にもたらす、市場価値のある人

専門職といえば、【その3】をイメージするが、実態は違うことが多々あります。

以前、とても有名な某人事コンサルティングファームに依頼して、職務給制度を導入したX会社(社員1500人規模)がありました。職務の難易度・重要度・責任等をポイント化して、職務毎に料金表をつくります。それに各社員を当てはめて、結果としてその人の給料になります。

私が驚いたのは、X会社は技術の会社でしたので、管理職より一般社員の職務給のほうが高額となった職務が相次いだことです。でも、なるほどと思いました。私はこれが真の専門職だと思います。つまり、客観的に会社への貢献度が高く、市場価値もある職務です。

ところが、前述の通り、中小企業の「専門職」はそうではありません。中小企業には、管理職より高額な賃金を貰える専門職は、なかなかおられません。

専門職制度は「大人の事情の産物」

私は、この専門職制度は日本型雇用システムの「大人の事情の産物」だと考えます。本来の専門職とは、いわゆるジョブ型雇用が馴染みます。新卒でも、年収1000万円以上のAI技術者は、市場価値がある真の専門職です。日本の場合、新卒一括採用・メンバーシップ型雇用で真の専門職は極めて生まれにくいのです。これに対する危機感が、昨今のジョブ型雇用の機運といえます。

現実は、前述の【その1】【その2】の通り、管理職ではない中高年をなんとか活かしていく「方便」として機能することになるのです。中小企業は「専門課長」だけでなく、「専門係長」などが出現したりします。キャラクターの一つの事例は、こうです。課長として部下を指導育成・統率して、部下を活かして業績向上を果たす役割を担ってほしい。しかし、部下から「あの人の元では働きたくない」「あんな人に評価されたくない」と言われてしまいます。課長にするには問題がある、実に惜しい人です。中小企業には、このような人が少なからずおられます。でも、特定の業務に精通しているので、辞められても困る大切な戦力なのです。

専門職制度は「必要悪」である

要するに、給与とプライドの問題で、管理職ほど厚遇できないが、それに準じたかたちで、当該「専門職」に気分良く、頑張っていただくことが必要なのです。特に中小企業は、限られた人員、現有勢力でのパフォーマンスを高めることしか道はありません。

ですので、専門職の基準・定義にこだわらず、「あなたは管理職ではないけれど、◯◯や☓☓の役割を期待している。部門間・上司後輩同僚とのコミュニケーションをしっかりとって頑張ってほしい。管理職と同等とまではいかないが、それなりに厚遇するからね。」と言わざるを得ないということです。

よく人事コンサルタントは専門職制度を導入する場合、評価基準を明確にしなさい、技能を見える化しなさい、目標管理制度で成果責任を明確にしなさい、と指導します。しかし、専門職といっても、特定の業務に精通している、メンバーシップ型雇用が生んだベテラン一般社員にすぎません。その技能の見える化・基準化・客観化は難しいし、めんどうなのです。

もっとも、中小企業の場合は、一定の育成のゴール・ステップを社員に示すことは大切です。そのうえで、「専門職」の役割責任、期待行動を個別に十分に説明したうえで、個別に専門職手当などを付与します。そのようにお茶を濁しながら?人事制度を運用するほかないといえます。望ましくはない、制度上すっきりとはいかないが必要があるのです。まさに、中小企業の専門職制度は「必要悪の制度」といえます。 この「しぶしぶ感」「必要悪」状態を回避するには、経営者が真の専門職を育てる覚悟を持つことです。経営者が、会社・本人が共有できる「専門職」としての明確なキャリアゴールを描き、長期的に意図をもって社員を鍛え、育てるほかありません。これは真の管理職・マネージャー育成にも同様の理屈が妥当します。

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