社員をやる気にさせたいならその人事評価者研修はやめなさい

 以下は、私のキャリアでの懺悔の意味で記載します。

一般的な人事評価者研修

 人事評価者研修の多くは、ケースビデオ又は会社の独自ケースを作成し、実際にそのケースを研修参加者(評価者)に評価をしてもらいます。そして、グループディスカッションをして、グループで統一見解を出します。それをもとに、講師が寸評、あるべき姿をレクチャーします。

 このようなことを複数回にわたり、又は毎年のように行います。コンサルタント側としては「1~2回の研修では身につきません。継続的な研修が必要です。」として営業します。制度設計に関与したコンサルタントが、継続フォロー契約することが一般的です。

人事評価者研修の唯一のメリット

 人事評価者研修で特に大切にすることは、「事実」に基づき評価しましょう、ということです。そして、講師は以下のようなフレームを提示し、順を追って評価をしなければならないと主張します。

①行動の選択(どんな行動を評価の考慮要素として取り入れるべきか)

   ↓

②評価項目の選択(取り上げた行動をどの評価項目で取り上げるべきか)

   ↓

③評価段階の選択(54321、ABCなどの段階づけが適切か)

 上記のように、その被評価者の人格ではなく、行動の「事実」を取り上げて評価しなさい、というのは、ご説ごもっともな理屈です。これを「勉強」することは、唯一のメリットといえるかもしれません。

人事評価者研修は経営にとって何の役にも立ちません?!

 しかし、過去に評価者研修を数十社やらせて戴きました立場で申し上げるのは大変恐縮ですが、人事評価者研修は、経営には何の役にも立たないと言い切っていいと思います。

 人事評価者研修の目的は、「評価の公正さ」「評価者間のばらつきの防止」「具体的事実に基づくフィードバック能力の向上」にあるのですが、このようなスキルについて「研修」したからといって、極めて研修効果が薄いのです。コストパフォーマンスが悪すぎるのです。

 文字で表現した評価基準の解釈に限界がありますし、もとより、「人間観」は会社から受講を命じられた研修などでは変えることはできないのです。人を信じることができる人、信じることができない人、さまざまです。

 応用心理学の某研究によれば、評点の分散(甘辛)の62%は、評価者の者の見方の特異性によって説明でき、実際の業績の差異が反映されていたのは、評価結果のバラつきのうちわずか21%にすぎなかった、という結果が出ています。

 そして、研究者は以下のように結論づけています。

 「評点とは評価される人の業績を測るものだという暗黙の了解があるが、実際に計測されている中身はそのほとんどが、評価者ごとに独特の評点傾向がある。したがって、評点結果が明らかにするのは、評価される人についてというよりも、むしろ評価者についてなのである。」と。

 この評価者の特異性を修正してやろう、という、その人間の価値フィルターを、研修によって変えてやろうという無謀なことをやっている。それが人事評価者研修なのです。

では、何を評価者に研修すれば良いのか?

 では、何を評価者に研修すれば良いのでしょうか?

 私は、一般的な人事評価者研修はやめよう、と主張しますが、やり方を変えればより実のあるものにできると考えています。

 それは、評価者が被評価者を「どう思うか?」ではなく、今後、その被評価者に自分が何をするか、ということを具体的に明らかにすることです。査定会議において「評点(点数)や評定(ABC)について議論」ではなく、「その被評価者を今後どうするか、つまり、将来に向けてどのようなフィードバックをするかの議論」に切り替えることです。

 査定会議ではCの人はずっとC、Aの人はずっとAです。その場で、あげくの果てに自身の育成責任を放棄して、「アイツはずっとCでダメですよ、温情でDをつけないだけです。」という管理職(評価者)まで出てくる始末です。

 評価の公正さを担保したい場合、評点のバラつきは人間なので仕方がないものとしてやり過ごし、偏差値方式で修正するなり、甘辛はエクセルで自動的に修正してしまえばいいです。

 査定会議の議論を将来に向けた育成やフィードバックに切り替えるのが業績向上のポイントであると申し上げたいと思います。

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