人事評価はもういらない?優秀企業の評価(その①)

(1)人事評価はもう要らない?

米国の有名大手企業では、人事評価制度、厳密にいえば、半期や年次単位での業績評価制度を廃止している企業が相次いでいます。業績評価とは、半期や年次単位のパフォーマンスで点数化し、ABCでランク付けする制度のことです。廃止する理由は、テマヒマの割に「社員のパフォーマンスの向上に結びついていない」からです。

このトレンドは2012年頃から始まっていて、昨年時点でフォーチュン500の約10%が業績評価制度を廃止したと言われています。

私は以前、「日本で一番大切な会社」「日本経営品質賞」を受賞した優秀な会社から、できうる限りの情報を集めたことがあります。人事評価制度や給与制度の情報です。そこで発見した特徴は以下のものでした。

1 評価制度はとても簡単なものであった。特に人事評価シートで複雑なものは見当たらなかった。

2 日々の対話やフィードバックは重視されていた。コミュニケーションの頻度は多く設定されていた。

3 いわゆる”人事コンサルタント”が作ったようなもの、本にのっているような制度でなかった。

4 給与制度は、どこにでもある”普通のもの”であった。これはどんな本にものっているようなものであった。

5 人事評価制度・給与制度はこんなに素晴らしいと胸を張ってPRする会社は1社もなかった(これを商売にしている武蔵野さんくらいか?)

6 給与制度は長期の安定と年功を重視していた

なるほど、従来の人事コンサルタントの仕事はこれからますます時流とあわなくなる、と確信した瞬間でした。

(2)どこから手をつけたらいいのかわかりません・・

「数年前、人事コンサルタントを入れて制度を設計したが、うまくいっていません。社長から見直しを着手するように指示を受けています。でも、どこから手をつけていいのかわかりません・・」このような相談を年に数回は必ず受けます。多くは真面目な中堅企業の人事担当者です。

人事制度というのは、人事企画です。企画はPDCAのP(計画)にあたります。実際「制度」や「手法」はやってみないとわからないことだらけです。ですから、DO(実行)して、C(検証)し、A(修正)を毎年行うことが必要です。

コンサルタントを入れて、「らしい」制度をつくっても、自分たちで制度をうまく機能させるためにPDCAサイクルをまわせない場合は、もう改善しないのです。

コンサルタントも数百万円のフィーをもらうのですから、できるだけ見栄えよく、完成度の高い、ガチガチのものを「納品」する職務使命があります。ここにサービスの送り手と受け手のニーズのギャップが生じます。

そうではなく、未完成でも良いので運用し、自社らしい制度を数年かけて作り込んでいける道筋をつけることが正解です。自社らしいC(検証)とA(修正)をくわえる手法を教えるのがコンサルタントの仕事なのです。ISOなどでもよく言われる「継続的改善」です。

つまり、どう修正したらよいのかわからない制度はいますぐ捨て去るべきです。

(3)人事評価制度の適切さはどう検証するか?

適切というのは「すべてに適切である」ということではありません。ある目的に対して適切かどうかで決まります。つまり、「目的」と深くかかわっています。適切さとは、「適切・不適切」という簡単に割り切れるものではありません。その意味で、チェックリスト的に「できている・できていない」という判断をするのは正しいとはいえません。目的を実現するために行っていることと、その状態をさらによくするために行っていることをきちんと見なければなりません。

 人事評価制度の目的は、「個人の能力向上・個人のパフォーマンスの向上」にあるはずです。この目的に照らして、検証することが求められます。

・会社の方針、価値観、目的・目標と評価制度に一貫性はあるだろうか?

・半期ごとの評価で良いのだろうか?

・目標管理で評価する、は妥当だろうか?

・そもそも点数化・ABCをつける必要はあるのだろうか?

・評価のための評価になっていないだろうか?

・個人にフィードバックがなされているだろうか?

・評価者(上司)の能力に問題はないだろうか?

(4)評価制度は「記述式」と「対話」重視で設計する

私たちは「評価する」「評価される」ということにある種の固定観念があります。小学校であれば成績表というかたちで、他人から評価を受けます。事前にこういうことができれば高い評価になるという目標や基準が与えられ、それに対してどうなのかを判定されます。私たちはこうした評価に慣れています。ある基準に照らしてこれは〇、これは×、これは△という感じです。

しかし、会社の評価はそうではありません。評価にはもう一つあります。内的な証拠を積み上げて実行したことが正しかったかを振り返るというものです。

例えば、ある商品開発の結果うまくいかなかったとします。この場合、集めた情報の内容は正確だったのか、その情報を分析するときに用いた方法は適切だったのか、開発の方法論は正しかったのか、それらの理論は目的に対して整合性や一貫性があったかを振り返ります。

外部評価と異なり、「どう評価するか?」という枠組みは提示されません。より良い商品開発のために何をどう振り返ればいいのかを、自ら考えていく評価の方法です。こうした振り返りの評価を「セルフアセスメント」といいます。

セルフアセスメントの項目は会社から提示します。たとえば、会社の行動指針を用いるのでも良いでしょう。この項目に基づいて、本人が記述式で評価し(つまり、評価を記述し)、上司と振り返りを行います。本人は自分の仕事ぶりを内部評価し、試行錯誤の学習過程を振り返ります。そして、上司はその本人と対話し、仕事ぶりを振り返り、味わうのです。仕事ぶりを「味わう」、いい言葉です。

特に創造的な仕事、専門的な仕事、前例のない仕事はこの「セルフアセスメント」により評価の仕組みを構築すべきではないでしょうか。

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