なぜ、中小企業に年俸制は不向きなのか? 2022 8/26 評価・給与 2015年10月19日2022年8月26日 経営者の方も経営コンサルタントの先生も「年俸制」、お好きですね。 でも、労働法や賃金と毎日向き合っている立場から言いますと、年俸制ほど取扱いが難しいシステムはありません。つまり、プロであっても導入を依頼されたときに、規程の作成、評価基準も含めて、相当な労力と神経を使うのです。 年俸制にまつわる誤解を以下に記載します。 重大な誤解① 年俸制を導入すると残業代が要らない →年俸制と残業代の支払いは無関係、年俸制でも残業代の支払いは必須。逆に賞与部分も含めて年俸なので、残業代単価が高くなり、未払い残業代請求がおこれば、それは、それはヒドイ目にあうのです。定額残業手当を合法的に導入・運用しておくことが必須です。 重大な誤解③ 当社は管理職に年俸制を導入しているので残業代支払いとは無関係である →管理職に対してのみ年俸制を採用されている会社は多くあります。しかし、労働基準法の管理監督者の要件は誠に厳格なので、そもそもオーナー会社では役員以外、”管理監督者”と認めてもらえることは皆無です。したがって、①と同様の問題となりえます。 重大な誤解③ 年俸制は毎年、”経営者が自由に”年俸を改定することができる →年俸制減額は労働条件の不利益変更にあたり、それも賃金に関するものは高度な合理性が問われます。 以下の裁判例があります(筆者が一部加筆修正) 「使用者と労働者との間で、新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続き、減額の限界の有無、不服申立手続き等が制度化されて就業規則等に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価決定権があるというべきである。上記要件が満たされていない場合は、労働基準法に規定する労働条件の明示や、就業規則の作成及び届出義務の規定の趣旨に照らし、特別の事情が認められない限り、使用者に一方的な評価決定権はない」 ということは、人事部のない中小企業ではまず、規程そのものも怪しいですし、上記のような緻密な制度運用はしていないので、年俸減額で訴えられたらまず「アウト~!」なのです。はじめてお会いする会社で、完璧に年俸制が運用されている会社って、まだ見たことないですね。 この厄介な年俸制、どんなときに問題になるかと言いますと、中途入社のスカウト採用者です。特に「管理職候補」として大手企業からやってきた人は、中小企業のプロパーの賃金体系・賃金水準と整合しないので、「年俸制」を採用しがちです。でも、これが最も危ないです。 中小企業のスカウト採用は9割失敗しますので、期待ハズレで給与を下げたときも、また未払い残業代を請求されたときもまず、会社は負け戦です。どんどんお金が出ていきます・・・。 一方、中途採用者ではなく、永年オーナー社長と同じ釜の飯を食った同志的な年俸制適用者(幹部)であれば、オーナー社長が「オイ、お前!今期の年俸の減額わかってるやろな!」と言えば、幹部が「ハイ、わかってます!」という阿吽の呼吸、かつザクっとした会話で終了するので、合法か違法はさておき、法律問題になることはあまりありませんが・・・。 おそらく、中小企業においては、基本給+役職手当+固定残業手当(超過したら超過分を払う)+業績賞与(完全変動給)という構成が最も使い勝手が良いと思われます。 もちろん、「合法的にアップダウンが可能な年俸制」を導入されたいというニーズは承知しておりますので、それは別途ご相談戴ければと存じます。 (お問合わせは以下からお願いします) お問い合わせ 評価・給与