5分未満切り捨て パートらに16億円遡及支払い どうするか?

1分単位で払いなさい?!

東証プライム市場(昔の一部上場)に上場する外食大手のすかいらーくホールディングスが、パートやアルバイトの賃金の支払いを5分単位から1分単位に変える。これまで5分未満の労働時間は切り捨ててきたが、その分の賃金を過去2年分支払うという。対象は約9万人で、費用は計16億円~17億円。アルバイトの男性がユニオンに加入して、切り捨てていた分の賃金を全従業員に支払うよう団体交渉を継続していたようだ。果たして中小企業もこのような対策にせまられるのだろうか?  

そもそも労働時間とは?

労働基準法では「労働時間」の明確な定めはないが、最高裁はこんな規範を示している。

「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。」と判示されています。(三菱重工長崎造船所事件 最高裁一小判 平成12.3.9)

なんか、難しい・・・。

要するに指揮監督下におかれ、義務付け又は余儀なくされた時間は労働時間と言えそうだ。  

なんか変だよ、労働時間の把握と管理

上記規範では5分ならいいが10分はダメとかそのようなことは言っていない。上記に該当すればたとえば1分でもその労働に対する賃金は支払う必要がある。つまり、その1分が労働時間かどうかが重要である。しかし、経営者としては違和感がぬぐいきれない。

たとえばこんな事例を考えてみてほしい。

ホワイトカラーの職場がある。所定労働時間は9時~18時(途中で休憩60分)であった。この職場に勤務する社員が残業許可を受けずに18時07分に打刻があった。一応、その時間帯までPCの前に座っていたようだ。

この「7分」は残業代として支払うべきなのだろうか?物事には社会通念・経験則というものがある。この会社は実働8時間だが、所定労働時間内で私的な会話・トイレ・タバコ・コンビニへの買い物・私的な電話は一切せず一心不乱に仕事しているのなら、実働が8時間を超えているので、この「7分」も残業代といえるかもしれない。でも、漫才師の大木こだまひびき風に「そんなやつおらんへんやろう~」と言わざるを得ない。

製造業の職場がある。所定労働時間は8時30分~17時30分(途中で休憩60分)であった。車が混むのでいつも早く出勤していて、8時前(7時50分前後)に打刻がある。気分が良いとたまに段取り仕事などをやっているという。会社としては「あまりに早く来るな」と注意しているが、2年間ずっとこんな感じである。5分どころか始業まで30分以上前に打刻しているのだ。使用者からしたら「別にそんなに早く来なくていい!」と言いたい。

皆さん、上記のような職場で1分単位で払うのが妥当とお考えになりますか?  

これからの労働時間の管理方針

私は今後の労働時間管理方針について以下のように考える。

1 ホワイトカラー職場の社員・いわゆる正社員

上場企業・上場準備中の企業でない限り、5分未満切り捨ては大きな問題にはならないと思う。製造工場のようにラインに張り付いていて、それこそ1分たりとも余裕がない職場は1分単位で払うべきだ。しかし、トイレ自由・私的な会話自由・スマホ見るの自由などの職場の場合、タイムカードの打刻から打刻までの間、10分程度の「ロスタイム」が必ずあるはずだ。これが社会通念であり、経験則ではなかろうか。賃金は「実働」に対して払われるものであることを忘れてはいけない。

では、15分はどうか、30分はどうかなどの議論になっていくが、私は10分程度の切り捨て(終業18時で打刻が18時9分→許可申請無い限り18時で処理)は当然ありえるのではないかと考えている。

2 製造業・小売サービス業のパート・アルバイト

理屈上は上記の社会通念が妥当するが、パート・アルバイトは1分単位がいいのかな、という気がする。

もっとも、5分未満切り捨てが直ちに違法とは思わない。すかいらーくも諸事情で5分未満切り捨て分を過去に遡って支払うと表明したが、彼らは「賃金未払いの違法」があったとは表明していない。おそらく、人手不足の昨今、パート・アルバイトにマイナスイメージを持たれるのは致命的なので法律論ではなく、人事労務管理論として支払いを優先したに違いない。

3 残業許可申請制度を厳格に運用

これは建前論になってしまうが、タイムカードの打刻があればどうしてもそれが労働時間であると推定されてしまう。だから、それが労働時間ではないという反証の記録が必要である。それが残業許可申請制度、残業記録簿である。これを用意しておきたい。  

法律論の前に良識論

1分単位で残業代を払うとなれば、私的会話は一切排除し、トイレにも許可がいるだろう。トイレに行きたければ、事前に小か大か聞いて、小は〇分、大は〇分と許可するだろうか。それを労働者も受忍しなければならない。理屈だけでいくとそうなる。でも、それでは職場はギスギスして働きにくい。

給与計算・管理上の都合もある。1分単位で計算すれば済む話だが、始業が18時で18時2分の打刻があったからといって、その2分が残業だったか否かを一々確認していられない。こんなことを厳格にやっていると、終業1分前にタイムカードの前に行列をなし、18時00分ちょうどに打刻をするのだ。まるでタイムを競うアスリートのように。

そのように考えると、パート・アルバイトを除いて終業後の打刻について15分未満を切り捨てる処理は極めて良識論の範囲だと思う。ちなみに30分未満切り捨ては、昔はよく行われていたが、もうやめておいたほうがよいだろう。  

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