中小企業も意識したい「離職率」の開示方法

クライアント企業に、「「離職率」を教えてください」といっても、出てくる数字は各社まちまちです。それは、離職率の考え方が曖昧だからです。そうなると、対象社員、基準時、計算方法がまちまちになります。私は中小企業であっても、離職率は、「人的資本情報開示としての離職率」と「新卒求人上の離職率」と大きく2つあるという認識が必要だと考えています。

上場企業が採用する「離職率」

2023年3月期決算から、上場会社は、有価証券報告書で「人的資本に関する情報開示」が義務付けられました。離職率は、人的資本関連指標として重要な指標の一つといえます。以下に示す「離職率」の考え方は、内閣官房「人的資本可視化指針(2023)」に準拠するものです。この計算方法は、ISO 30414(人材マネジメント - 人的資本情報開示のガイドライン)に定めるものと同様です。

離職率 = 当該事業年度中に退職した正社員の人数 ÷ 期首時点の正社員数 ✕ 100%

事例としては、トヨタ自動車の有価証券報告書では、この計算方法で1.5%となっています(正社員)。カゴメでは、全従業員離職率2.4%(うち自己都合退職1.9%)と内訳まで表示しています。「正社員」「自己都合退職」など算出方法を注記で明記しているようです。

なお、中堅・中小企業にも人的資本情報開示の流れは必ず来ますので、末尾に離職率以外の人的資本情報開示例を掲載しておきます。

新卒求人票での「離職率」

新卒求人票(ハローワーク・大学キャリアセンター等)は、厚生労働省の「青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)」に基づき、企業が希望すれば「職場情報」を自主的に開示できる仕組みがあります。その「職場情報」の一項目として、「過去3年間の新卒者の採用者数・離職者数」が定められています。したがって、新卒求人票に掲載する離職率は通常、“新規学卒者の離職率(新卒3年以内の離職率)”を指すとも言えそうです。

新卒3年以内の離職率
= 3年前に入社した新卒者のうち、3年以内に離職した人数 ÷ 当該年度の新卒入社数 ✕ 100%

たとえば、2022年3月卒で10人入社、2025年3月時点で3人退社したとします。この場合の「離職率」は何%でしょうか?回答は3÷10=離職率30%です。この離職率は、厚労省が毎年公表する「新規学卒者の離職状況統計(雇用動向調査・新規学卒者調査)」と整合し、他社比較が容易となります。たとえば、求人票では以下のような記載が考えられます。

<求人票>
新卒入社者の定着状況(過去3年間)
2022年度入社:4名 → 3年以内離職1名(離職率25%)
2023年度入社:6名 → 離職1名(定着率83%)
2024年度入社:5名 → 離職0名(定着率100%)
3年以内離職率の全国平均(厚労省・大卒):31.5%ですので、当社は全国平均よりも低く、定着率は良好です。

中堅・中小企業の人的資本情報開示例

開示項目開示内容の例ポイント(中小企業向け)
従業員数・属性社員数42名(男性30名、女性12名)、平均年齢36.8歳基本情報としてまず開示しやすい
平均勤続年数・年齢平均勤続年数:8.2年、平均年齢:36.8歳労務データから抽出可能。更新も簡単
研修制度・時間年1回の外部研修、平均研修時間16時間/人実施している内容を数値化するだけでOK
エンゲージメント指標年1回の満足度調査実施(5点満点中平均4.1)アンケートで満足度等を簡易に収集できる
人事制度の透明性評価基準の明示とフィードバック実施率90%制度の有無+実施率の開示だけでも信頼性向上
キャリア支援制度年1回のキャリア面談、異動希望申告制度あり制度名+実績で開示すると説得力あり
ダイバーシティ女性比率29%、産休・育休取得率100%女性活躍や年齢層データだけでも効果的
健康・安全対策ストレスチェック実施、健康診断受診率100%実施状況を記載するだけで安心感を与える
離職率・定着率年間離職率:4.7%、新卒定着率:91%定着率は採用広報にも有効。要記録
自己申告・面談制度定期1on1を実施し、対話によるフォローを強化定期面談の有無を開示。簡単で効果大
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