中小企業の昇給の真実 2025 7/23 評価・給与 2025年7月23日中小企業の業績は悪化 顧客を数百社抱える大手会計事務所の所長先生との話です。「2025年3月期の中小企業の決算はどこも悪くなっているので、とてもやりきれなく深刻に感じます」とおっしゃいます。労務コストの上昇も、とどまるところがありません。その他、仕入れコスト、エネルギーコストの上昇、その分、価格転嫁が追いつかず、利益を圧迫しています。売上やそれなりに増加した会社でも利益がとれない。さらに、売上がダウンしていれば、結構な減収減益となっており、先行きが暗いのです。先生、今年の昇給は他社どうですか? このような状況下で、2025年3月から7月の間、電話、チャット、メールで「先生、今年の昇給、他社はどうですか?ウチはこれくらい考えているがどうですか?」という質問を毎日のようにいただきます。上記のような背景事情がおありですので、それは悲痛な声に聞こえます。過半の中小企業は賞与原資を取り崩す以外に「賃上げ余力」がないのです。連合・経団連・大企業労組公表の数値の意味 2025年、大手企業の平均昇給額は1.8万円から2万円を超えています。昇給率の平均も軒並み5%を超えています。2025年の「昇給率は過去最高」という報道があります。しかし、この数値はあくまで大手企業・労組組織企業の平均です。この数字がマスコミやネットで公開・周知され、中小企業に所属する社員は、ウチの会社は昇給が少ない、賞与が少ないと文句を言います。しかし、本当の日本の昇給実態とは何なのでしょうか。全企業数の99.7%を占めるのが中小企業です。また、全従業数の69.7%が中小企業に勤務しています。中小企業こそ国の実態なのです。報道の多くは国策と一体となった「賃上げ誘導」です。統計上、「平均」と「中央値」は異なる 連動・経団連・大企業労組の統計はすべて「平均」です。たとえば、連動・経団連の春闘集計(2025年7月)は、平均昇給額(定昇+ベア)は、月額13,049円、平均昇給率は5.1%となっています。統計において、「平均額」を採用することで、印象として高く出やすいことが起こります。経団連や連合の発表では、「中央値」や「最頻値」は非公開です。平均値は一部の高昇給企業が全体の平均を引き上げることがあります。また、連合や経団連の集計は「加重平均」が使われるため、大企業の影響が大きくなります。つまり、肌感覚の実勢と乖離するのです。 「平均」ではなく、「中央値」のほうが「多数派の実態」に近いので、現場で活用するための数値は、中央値や分布を見ることが大切だと考えています。中小企業の昇給の「中央値」は? 中小企業の昇給は、率で2.5%~3.0%、額で4,000円~6,000円程度です。これに初任給アップに伴う若手傾斜配分的ベア(つまり是正昇給)が加わる感じです。もちろん、若い人が多い会社は給与の絶対金額が低いですから、昇給率はこれより高くなります。 福田事務所の顧客の昇給率も、2023年、2024年に思い切ってベースをアップした経緯があるため、2025年は「沈静化」しています。2.5%~3.0%の範囲におさまる企業が大半です。もちろん、一部の中堅企業は2023年、2024年、2025年と継続して大手並みの昇給を実施している会社はありますが、安定性・収益性・成長性が上場企業並の会社と言えます。苦悩する社長様へ 「この夏の賞与で30万円なかったら、辞めてやる」 という、勤続1年目 25歳の社員 「社長!私の市場価値をご存知なんですか」 と詰め寄る、勤続7年、35歳(某有資格者) 「5%はないとね。うちの給与は低いから」 と若手に熱く語りかける、40代のベテラン社員 「生活が苦しい、生活が苦しい。生活が苦しい」 という、娘の塾代でお小遣いがなくなった40代の社員 報道で「平均5%」や「過去最高の昇給額」といった見出しが飛び交うなかで、私たち中小企業の社長は、常に「本当にこの程度の昇給でいいのか」「社員はついてきてくれるのか」「この先やっているけるのか」「運はあるのか・・」と自問自答しています。でも、どうか自信を持ってください。中小企業にとって最も大切なのは、「一時的に高い昇給をすること」ではなく、持続的に、誠実に、社員に報いる仕組みを育てていくことです。社員は、会社の規模や数字の華やかさよりも、「この会社は自分を見てくれている」「努力が報われる仕組みがある」、そう思える環境を求めています。確かに、大企業のような1万8,000円の昇給は難しいかもしれません。でも、「5,000円でも、一定の制度と説明があれば人は動機づけられる」というのが現場の真実です。大手企業と比べてため息をつくのではなく、社員に夢を語り、「自社なりの昇給の方針と仕組みを磨く」ことこそ大切です。賃上げは、会社の価値を未来につなぐ投資です。小さくても、継続的に確かな一歩を重ねることです。 しかし、これからが正念場、本当に現場は悶絶するくらい厳しくなるでしょう。私は中小企業の現場に根を張り、社員とともに歩む皆様を、心から応援しています。 評価・給与