中小企業はその目標管理制度(MBO)をやめなさい

人事制度における目標管理制度とは?

 目標管理制度は1970年代ころから米国から輸入されたものです。その目標管理制度は、1990年代後半くらいから成果主義人事制度の導入と相まって、大半の企業で採用されていると思われます。9割以上の企業に導入されているという調査もあるくらいです。

 目標管理制度(MBO)とは、Management by Objectives and Self-Control です。その本質はセルフコントロール(Self-Control)にあります。上司からの強制ではなく、自ら立てた目標に対して、自らの行動を管理・統制するという自律的な働き方が重視されています。

 そのせいか、「うちの目標管理制度はノルマ管理になっているので改めるべきだ」、「会社からの一方的な目標はモチベーションにマイナスだ」という人もいるくらいです。

目標は“上から割り付ける”が基本中の基本

 私はこれまで、数十社で目標管理制度の導入支援をしてきましたが、うまく機能している会社に共通する点が一つあります。それは、社長・役員などが、会社の必達目標達成のために上から割り付けているということです。もちろん、社長・役員等と管理職が、目標設定について侃々諤々議論はします。でも、会社、社長等が説得のうえ意見を押し通すのです。故に、必然的に目標管理制度が有効たり得るのは、「数値目標が明確な営業職」「部門目標が明確な管理職」に限られてきます。人事制度上、成果評価指標のために目標設定を全社員に指導するコンサルタントがいますが、100%形骸化します。

処遇と“直結”させると、制度は確実に腐る

 「数値目標が明確な営業職」「部門目標が明確な管理職」については、賞与評価に直結させることはありえるかもしれません。しかし、それも一定の難易度があります。目標達成度によって処遇を決めると、「みんな達成しやすい目標しか書かなくなる」「評価シートは抽象的な作文で埋まる」ことが起こります。会社も形骸化を承知で処遇を決定しはじめますから、社員側も「どうせこれで評価は上がらない。目標なんて適当に書いておけばいい」ということで制度が崩壊していきます。

成果評価の”参考情報”とすべき

 私が、目標管理制度に否定的なようですが、決してそうではありません。目標管理制度の最大な旨味は、進歩・発展・改革・前進です。進歩・発展・改革・前進させたい仕事やスキルアップの内容を具体的に焦点化し、背伸びした目標を設定し、それに挑むことこそ経営です。去年までの仕事を去年と同様にするのではなく、常に進歩発展を社員に要求する必要があります。この点、目標管理制度は優れています。しかし、処遇と目標達成度をロジカルに連動させるのはやめるということです。もちろん、頑張って目標に取り組んだ人を適切に報いたいです。しかし、処遇をデジタルにつなげると、社員は守りに入り挑戦を回避し、制度は形骸化します。そうではなく、

①成長や挑戦を促す制度と位置づける
②評価者研修・被評価者研修で目標管理制度の趣旨を徹底する
③目標達成度は成果評価の参考情報として位置づける

 社員にはこう説明します。「この目標の達成度のみで評価は決まるわけではない。でも、あなたの挑戦はきちんと見ています。」

目標管理項目の構造の例

 伝説の経営コンサルタント 一倉 定 先生は、日本の昭和~平成の目標管理制度の普及に対し、危機感をあらわにされました。「次元の低い目標管理のテクニックを経営のためと思って導入し、混乱を引き起こしている現実を、目の当たりにし、あまりにも多く見せつけられると黙っているわけにはいかなくなる」とおっしゃっています。これは、下記の1、2、3の混同と、成果主義の評価基準に無理やり押し込んだことにその原因があったと思われます。私のささやかな経験からも、抽象的又は低い目標をみんなで立ててて、それをほぼ達成、でも会社全体の目標は未達で赤字という会社を少なからず見聞してきました。

1 会社が指定する企業存続のための必達目標:1~2個
 例:部門KPI達成、プロジェクトXの推進

2 本人が設定する任意目標:1個
 例:〇〇スキルの習得、業務改善提案の実行

3 上司と相談して決めるスキルアップ任意目標:1個
 例:後輩指導の経験、プレゼン力強化
   →特に中高年のリスキリング目標などは最適

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