上手な“熟成”問題社員の育て方

熟成問題社員とは?

 仕事がら、「先生、問題社員がいます。なんとかしたいです」という相談を、毎日、いや、日によっては複数件、お受けします。他人というものは簡単に変えることはできず、かといってクビにすると、日本の労働裁判では木っ端微塵に使用者側が負けることが大半です。ですから、法の触れないよう、あの手この手を使い、各企業様で個別・固有のアプローチを考えるのですが、非常に難しい事案があります。それは「熟成問題社員」への対応です。「熟成問題社員」とは私の造語であり、主なプロファイリングは以下です。

・配転もあまりなく、人間関係が固定化、仕事が属人化されている中小企業に多い。

・勤務年数がそれなりに永い(最低10年以上)。

・管理職やそれに近しい地位を得ている。

・口先が立ち、口先だけで仕事をし、30分、1時間はしゃべる、非常にめんどうな45歳以上の中高年の社員である。

・めんどくさいので、誰も何も言わずに(かかわりたくなく)好き放題やっている。

・社内政治が超得意で、影響力があるように見える。

・社内の情報に精通しまくっている(社長やオーナー一族のゴシップなどは特に大好物)。

・いろいろな手を使い、大口ユーザー・重要得意先に深く入る、自分にしかできない仕事やワールドを構築し、社内の存在意義を高めている。

・場合によっては、社長(後継社長)よりも自分がトップになるべきだ、という立ち位置の大きな勘違いを起こしている。派閥・子分をつくることも多い。

熟成問題社員の発生のメカニズム

 熟成問題社員は、自然発生的に生まれるのではありません。会社が意図する、か、しない、にかかわらず、会社が永年かけてしっかりと育てあげたのです。全部、会社のせいなのです。

 大まかなメカニズムは、

 小さな問題行動 → 注意しても聞かない → 放置 → 大きな問題行動 → 注意しても聞かない → 上司を含め周囲の社員がめんどうくさいのでかかわりを避ける → 結果として問題社員にとって居心地の良いワールドが会社内に独自に完成する

 熟成問題社員は、過去に問題行動・ルール違反が許された「特別扱い」の経験があり、その経験をもとに学習し、熟成問題社員として立派に成長するのです。上司がめんどうなおっさんなので、短期的なその場しのぎで、軽微なルール違反ならどんどん周囲にバレないように、特別に問題社員の問題行動を認めていきます。

 そして、一定の独自ワールドの形成がはじまると、今度はそのワールドを破壊されないよう、会社にとって有益な存在意義というよりも、自分のための存在意義をゆがんだかたちで確固たるものにしようと画策をはじめます。

 具体的には、「自分にしかできない仕事」をつくりまくるのです。それがやりにくい場合は、重要得意先に格別なサービスを「自分の裁量」で提供し、重要得意先からは「●●さんが担当でないと取引できないね~」と言わせるのです。その状況では、実は多くの社員(他部署含む)は、問題社員の利己的行動で迷惑を被っていることも一般的です。人によって態度がガラッと変える特徴も持ち合わせています。

会社が学ぶことはなにか?

 私は、経営とは「戦い」だと思っています。市場でライバル会社と、顧客へのお役立ちを競い合っています。そのために戦略をつくり、目標・方針をたて、計画をたて、ルールをつくり、社員に妥協なくやらせきります。今日、このとき、目の前の戦闘において、軽微なルール違反・方針無視を放置すると、中長期的な難しい上位戦略目標など実現するわけがありません。

 社員は敵、ということではなく、方針やルールに反する行動をやめないのであれば、徹底的に何度も何度も指摘し、やらせきるのです。これは、リーダー自身の自分との戦いになります。「彼はハラスメントも起こすし、非常に問題があり、彼のせいで退職者が出ているのは知っています。しかし、今、彼にやめられると・・」というお悩みも多いです。しかし、その、短期的につくろう、ダメージを避けよう、という弱さが、熟成問題社員を育てます。

 方針やルール違反を意図的に行う、利己的な人物は、妥協なく、向き合い、軽微な処分から重い処分を段階的に行い、賞与をゼロにし、それでもダメなら社外に掘り出すべきです。

 リーダーの一貫性、当該問題社員に対してどう向かっていくか、その姿勢を全社員が見ているのです。社会に有益な真に強い会社になりたければ、何が正しいのかです。人間は弱いものです。敵に勝つ前に自分に勝つしかありません。

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