物価手当・インフレ手当はやめなさい

いつか来た道、物価手当

 20年前、人事給与コンサルタントの駆け出しの頃、中小企業において「物価手当」を支給している会社がたくさんありました。平成のデフレど真ん中でしたので、過去の遺物そのものに見えたのを記憶しています。それがいつの間にか、他の手当に吸収され廃止されていきました。

 ところが、最近、円安によるコストプッシュインフレが加速しています。給与体系を抜本的に変更するつもりはないが、これだけインフレが加速すると社員の生活が苦しくなるだろうと、多くの経営者がインフレ対応の「物価手当」を支給し始めています。

昭和インフレ時代との違い

 昭和の時代は、労働者の年齢構成は若く、給与が安い人が多いピラミッド型でした。ですから、物価手当を全社一律で支給(金額又は率)しても、特に違和感がありませんでした。それだけインフレも激しかったのです。

 ところが、現在は年功賃金がすすみ、中高年の割合がどの会社でも高くなっている逆ピラミッドになっています。また、最低賃金・初任給相場の高騰で、若手重視のベアのニーズが高まっています。一律のいわゆるベースアップをしてしまうと年功賃金を解消することはできなくなります。令和のいま、一律のベアはなかなかできないわけです。

物価手当の金額はいくらくらいか?

 令和の時代の物価手当の支給額は月額5,000円~1万円の間です。月給にのせる会社や、割増賃金の基礎になることを回避するため、又は変動要素としたいため、3ヶ月に1回、又は賞与時に10万円、など支払う会社もあります。

 昭和の時代は、このインフレが激しく、物価手当がどんどん膨らんで、基本給 本体にせまるものでした。このような場合、基本給に組み入れないと給与体系の整合がとれなくなります。

 令和の時代も、物価手当の支給をしたとしても、一時的な逃避策とみるべきです。いずれは、基本給に組み入れていくことになるのです。

基本給と賞与・退職金のリンクを切りなさい

 今後、物価手当は上がっていきます(上げる必要性が高まります)。日本型賃金システムは、基本給に賞与と退職金がリンクして、一連一体のものとして長期雇用に報いていくシステムです。しかし、物価手当が10万円、基本給18万円・・なんかかっこ悪いですね。基本給が賞与にリンクしている会社、退職金にリンクしている会社は、このようにするほかないかもしれません。

 だから、基本給と賞与・退職金のリンクを早々に切ることが必要です。賞与は業績連動とし、退職金は職位貢献で支払う仕組みとすることです。

 物価手当で出すと、物価が下がったら下げることができる、とお考えの経営者の方がおられます。賃金減額は、高度の必要性に基づいた合理性が必要とされますので、少々デフレになったくらいでは下げることはできません。

 逆に経済は円安が進み、輸入物価指数が上がり、消費者物価指数がこれからどんどん上がっていきます。社員からは「生活が苦しい。物価が上がっているのだから、物価手当を増額してほしい。」という声がどんどん高まることは必至です。

物価が上がるので給与を上げる、はやめよう

 経営者は社員の生活状況を心配します。そして、経営者は社員にいいかっこをしたいものです。しかし、それならしっかり稼いで、業績還元で年収を上げるべきです。また、労働市場の価格を考慮し、人事評価システムで評価をして、貢献度の高い社員に今まで以上にドンと昇給を行うべきです。つまり、物価が上がるので給与を上げる、という理屈で給与を上げるべきではありません。あくまで会社の業績向上・労働生産性の向上があってはじめて給与を上げることができる、この原理原則は外れてはなりません。

 為替介入は後8回程度できるといいます。しかし、円安の構造は変わらず、介入の金がなくなり、市場が見透かせば、もう通貨危機で、円が暴落します。

 円安をトリガーとしたコストプッシュインフレは、仕入・原材料価格、エネルギー価格を引き上げ、消費を減退させます。昭和のインフレとも違いますし、今までの為替介入状況とも全く違います。

 企業の粗利益は下がることはあっても上がらないので、賃上げ原資がありません。だから経営者は、ど真剣にのめり込んで経営し、賃上げに挑まないといけないわけです。

目次