大転職時代の退職金制度はどうするか?

中途採用比率、最高37%

 中途採用比率、最高37%という見出しが目にとまりました(日本経済新聞4月20日朝刊)。この記事のポイントは、中途採用比率が37.6%、7年で2倍、専門人材の確保が急務となっている、新卒採用主体のやり方に限界がきている、などがあげられます。

 欧米ではこんなことは当たり前で、中途採用と相性が良い「ジョブ型雇用」が標準的であることは、皆様もご存知の通りです。就活生も半数が転職を視野に入れており、終身雇用などは信頼していません。

給与制度はどうなるか?

 給与制度も、職務給・ジョブ型給与の導入が叫ばれていますが、私は新卒採用システムが継続する限り、ジョブ型給与は難しいと思います。少なくとも35歳程度までは育成期間と位置づけ、「適性配置」「定期昇給」は求められるでしょう。もっとも、40歳を超えた場合、昇給はどうなるかというと、本人の能力、職務の内容、会社の業績によって極めて多様になってくると思われます。

退職金制度はどうすべきか?

 大転職時代・雇用流動化時代だから、退職金は廃止すべきだという論調もあります。欧米には、日本の退職一時金制度はありません。そのかわり、確定拠出年金制度を導入する企業が多いと聞きます。つまり、転職前提なら、次の転職先に持っていける制度がいいというわけです。

 ここで立ち止まって、退職金制度の目的は何か?を考える必要があります。退職金制度の目的は、優秀な人材の確保・定着だと思います。「確定拠出型」は、すでに拠出が確定しており、従業員にそのお金が帰属しています。いつ引き出せるかという問題はありますが、本人のお金なのです。

 建設業のX社は「退職金・企業年金制度」が充実しています。採用コンサルタントに、退職金等の充実は人材確保には重要です、とアドバイスを受けたこともあります。

X社の退職金制度は
①    401K(確定拠出年金)・・銀行のススメで加入
②    確定拠出型中小企業退職金共済・・規定で勤続年数毎に掛け金が明確になっている
③    建設業退職金共済
の3本で成り立っています。
すべて規定に掛け金が明記されていて、本人の帰属額が明確です。

 X社は退職金を充実させた代わりに、給与の底上げが後回しになりました。

 X社の退職金はすべて「確定拠出型」なので、懲戒解雇等の特別な事情が無い限り、どんな辞め方(ライバル会社への転職、引き継ぎ無く、いきなり辞める、証拠はないが横領の疑いがある等)をしても「減額する」ことはできないのです。

 X社の社長の相談は以下のようなものでした。

社長「30代の現場監督がどんどん退職して、退職金を受け取ってライバル会社に転職していく、どうしたら良いでしょうか?」

福田「社長はこんな退職金制度をつくって、転職の奨励をされたいのですか?」

社長「とんでもない!できれば、先月、ライバル会社に転職した社員Aなどはできの悪い現場監督でしたが、後で不始末が多々わかってきましたので、逆に損害賠償請求したいくらいです。」

福田「30代のライバル会社に転職する人物などに、退職金は1円も払う必要はありません。退職金は、法的に義務付けられたものではなく、任意の制度です。制度設計には企業の裁量があるのです。」

社長「退職金制度がなければ求人に悪影響はありませんか?」

福田「退職金制度を廃止しなさい、とは言っていません。退職金制度は存続させるべきです。大転職時代だからこそ、「転職したら損」「幹部となって継続勤続したほうが得」という制度が必要と考えます。401Kも確定拠出型の共済金もそれには不向きです。ポータビリティー(持ち運びができること)など悠長なことを言っているのは大手の話です。」

中小企業の退職金は長期雇用のインセンティブである

 裁判所は、退職金を賃金の後払いであるとその性質を勝手に決めつけます。過去はそうだったかもしれませんが、これだけ新卒初任給が高騰し、若年者の給与が上がっているのですから、今の貢献は今支払う(PAY FOR NOW)です。ですから、これからもっと若年労働者の給与は上がり続けます。賃金の後払いというのは時代にあいません。あくまで、退職金はプラスアルファであり、長期雇用のインセンティブであるべきです。したがって、よくある「退職金積立目的=養老保険で全員に積立」、これも全く時代遅れの手法です。

 幹部として永年勤続してくれた社員に限り、今まで以上に退職金を増額するといい。分前は、少ない社員でたっぷり分けるのです。

 一方で辞めてもらいたい社員にとっては、その原資は転職支援金として会社都合退職金として機能することになります。この場合、30代であっても支給することになろうかと思います。

 貴社の退職金は時代にあっていますか?

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