課長より「若手からいきなり退職届が出ました!」と報告、これ本当か?

いきなり、給与が理由で退職?

某課長「社長!期待の若手のA君がいきなり退職届を出してきました」

社長 「えー、それはショックやな。で、退職理由は?」

某課長「A君ははっきりとは言いませんが、おそらく給与だと思います」

社長  ・・・・天を見上げる・・・・(頑張って上げていたつもりなのに・・)  

このようなやりとりが日本全国の中小企業で展開されている。では、質問。

  「A君はなんの兆しもなく本当に”いきなり”退職届を出してきたのでしょうか?」
「本当に給与が”唯一の”退職原因なのでしょうか?」  

私はこれはNOだと思う。

それは、会社が社員を全人格的に把握することができていないからだ。社員を把握するマインドと仕組みを持っていれば、いきなり退職することは防げる。  

すべての原因は「情報の不一致」にあり

経営者 ⇔ 管理者(上司) ⇔ 社員 に情報の不一致がある。これが誠に大きい。いま気の利いた大手企業からベンチャー企業に至るまで、少なくとも月1回以上は1on1(個人面談)を行い、部下の意向を聞き、業務、キャリア、人間関係等の「心のトゲ」を抜いてやる仕組みをもっている。

1on1は、上司の部下に対する時間の投資だ。この投資を怠っているので退職者が出る。部下の意向を聞き(必ずしも叶える必要はない)、それにできる限り応じた職務機会の提供、人材育成、職場の問題解決を行うことは可能なはずだ。  

「マネジメント病」と喝破した伝説の経営コンサルタント

伝説の経営コンサルタント 故・一倉定先生は、社内にいて内部管理ばかりしている社長を、マネジメント病にかかった「穴グマ社長」と揶揄した。本来、外出してお客様のところへ訪問して情報を得るべきなのに、内部の情報をこねくり回して悦に興じていることを糾弾している。

私はいま、顧客を獲得するより、標準以上の能力の社員を確保・定着させることが難しいと感じている。だから、顧客志向を重視した真のマネジメントを経営者から中間管理職に至るまで徹底して行わなければならないと考える。「仕事」はあるが、商品サービスを提供する「人」がいない時代である。

いま、日本中の中小企業で発生しているのは「マネジメント不全という病」なのだ。これが離職を招いている。そして、社員を社内顧客と考えることが重要。これを、経営学上「インターナル・マーケティング」という。  

インターナル・マーケティング投資が必要

マーケティングであるなら、投資が必要である。まずニーズを把握しなければならない。そのニーズを把握したうえで、社員の望むもの(職務機会・教育・キャリア形成・給与・福利厚生等)を提供することになる。

日本企業は、人材投資の額について米国に見劣りするという。特に外資系に比して見劣りするのが「インターナル・マーケティング投資」だ。より具体的にいえば、従業員の個性(強み・弱み)、意向、悩み、家族構成、キャリア目標(ないならないで対策)などを把握して労務管理に活かすことができていない。大手・中堅企業は、1on1で得た情報を、人事システムに記録・管理して人事政策に活かしているところもたくさん出てきた。だから、いわゆるタレントマネジメントシステムのベンダーが次々と成長し、新たな市場機会をねらい上場するのだ。もっとも、中小企業がタレントマネジメントシステムを導入しましょう、という気はさらさらない。システムなどなくても、エクセルやスプレッドシートで十分管理できる。

人が大事、人こそ資産というなら、人材を人財と書き換えてお茶を濁すのではなく、その資産内容を適時適切に把握しなければならない。なぜなら、人資産はモノ資産と異なり、感情があり、多様で、成長し、時には腐ってしまう、という、とても活用が難しい資産だからだ。年1回の棚卸しではすまない。人資産こそ「月次棚卸し」が欠かせない。

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