「限定的ジョブ型雇用」の導入が加速する 2022 10/03 評価・給与 2022年9月15日2022年10月3日 グローバルスタンダードがやってくる 日経新聞(8月15日朝刊)に、世界一の半導体メーカーのTSMC(台湾)が熊本県にやってくるという記事があった。熊本県という地方に様々なグローバルスタンダードが持ち込まれる様が描かれている。その一つに賃金がある。初任給28万円。熊本県庁の初任給は18万7千円だという。地元の中堅製造業の経営者がぼやく。「将来のエース級と期待した20代前半の若手エンジニアが、県内の半導体大手に引き抜かれた。当社の年収400万円に対して、相手は『3年以内に500万円に引き上げる』と約束し、それが決め手になったようだ」と。 今後は円安もあいまって、外資系のグローバルスタンダードによって相当な高額で人材を引き抜かれるだろう。 つまり、日本はメンバーシップ型雇用なので、賃金は徐々に将来に向けて上がっていくもの。しかし、そのような島国の理屈は通用せず、「ウチはウチなりに出しているぞ!」という主張はグローバルスタンダードに完膚なきまでに叩きのめされることになる。 完全なジョブ型に移行することもできません それなら、ジョブ型だ!といって新卒採用をやめて、職務・ポストにカネを貼り付けるジョブ型雇用に移行できるかといえば、日本の労働法制、社会経済システム、社内事情等から現実的ではない。では、メンバーシップ型雇用一本で、世界標準にいいようにされるのを、指をくわえてみているのかといえば、そうもいかない。 要するに、労働市場の価格、カネの問題だ。しかるべき職種職務、スキルのある人材はマーケットの論理に従い、個別対応で、時価賃金で支給するほかない。日本の社員はおくゆかしく、また、職種別賃金統計が未発達、職種別労働組合もないので、社員がオーナーに交渉するという文化がない。米国はいま、賃上げ交渉に行列ができているという。日本企業、日本のオーナー社長は、この適時適切に市場価格を提示して引き止めるというセンスが弱い。これが今後禍根を残すことになる。 外資系企業のヘッドオフィスからの要請 過去も含め私は複数の外資系企業とお付き合いがある。日本法人はヘッドオフィスから人事労務上の課題解決が突きつけられる。その典型例として「中高年社員の生産性の向上」がある。きれいな言い回しだが、要するに中高年は働きの割に給与が高いので下げろ、という命令のことだ。つまり、逆に高すぎるのだ。 日本はメンバーシップ型・終身雇用、定期昇給と年功賃金なので致し方がない。しかし、グローバルスタンダードが要求することは、時価賃金、稼ぎや働きに応じて賃金を決めるというものだ。しかし、日本は、人に給与をつける能力給がベースであるので、これがなかなか難問なのだ。今いる人の給与を下げることはできない。 限定的ジョブ型雇用のすすめ メンバーシップ型雇用はなくならない。でも、メンバーシップ型雇用のみでは生き残れない。メンバーシップ型をインフラにしながらも、ジョブ型をインクルーズした、ジョブ型ハイブリット経営に移行していくに違いない。優先順位の高い、半導体エンジニアやIT関係のエンジニアを早急にジョブ型にして市場賃金とあわせる必要がある。 次に、管理職者の賃金についても、ジョブ型雇用にすることは可能ではないかと考える。 労働市場の価格、賃金の変化にあわせて、日本企業がやるべきことは以下。 ①若手の給与を成長度合いに応じて、急ピッチであげる。 ②中高年で成長が見込めなくなったら上げない。 →どうやったら賃金が上がるかを示す必要性は高まる。 ③中高年からはジョブ型(ポスト)雇用の要素を取り入れる。 ④希少なエンジニアは若い頃からジョブ型雇用の要素を取り入れる。 大家族主義経営、浪花節もほどほどに 大家族主義経営、人間関係をベースにした経営、これが中小企業の強みであることに疑いはない。しかし、浪花節、情が全面に出てしまっている日本的経営が多すぎる。 情を抑えて経済合理性に徹することを怠ってはいけない。 労務を真剣に考えれば考えるほど、財務を考えざるを得ない。財務を真剣に考えるときに労務の視点は欠かせない。 リスクをとり、シガラミをドライに断ち切り、大きなそろばんを弾く必要がある。その退職金、家族手当、福利厚生は時代にあっていますか? 評価・給与