役職定年制について廃止しようか、存続しようか迷っています。

従業員数が増えれば増えるほど、また、製造業、卸売業を中心に役職定年制を採用する企業が増えます。従業員数が300人を超えると、多くの企業が役職定年を採用していると思われます。

従業員数が300人未満であっても、導入されている企業は少なくありません。しかし、企業規模が小さくなればなるほど、法的に合法な役職定年か否かは怪しくなるのです。

役職定年となり、管理職から降りて仕事の質と量が下がる、その結果、賃金が下がるということが論理的に結びついていることが肝要です。一方、現在、問題になっているのが、役職定年が、単なる一定年齢における賃金カットの手段となっている場合です。つまり、仕事内容・負荷は変わらないのに一定の年齢になると諸手当が取れて賃金が下がるのは不当であるという意見が多く聞かれます。

これは日本の人事労務管理においては、職務給的な取り扱い(仕事に給与を払う、管理職の仕事が職務記述書等に記載され、運用されている)ではなく、職能給的な運用(仕事ではなく、その人の能力に払う傾向が強い)となっているため、ややもすれば役職定年となっていても、仕事はさほど変わらないという現象が起きることが背景にあります。また、昔は55歳が定年であったことも影響しています。

企業の労務政策として、どんな役職・職務を命じるかは自由であり、その役職・職務の負荷に応じて賃金を決めるのは合理的だといえます。したがって、役職定年を設け、役職を降りたら、その分の賃金が下がるというのは合理的です。

しかし、たとえば、55歳のときに、その時点での「能力評価」を行い、その評価に応じて賃金を減額するということが全面に出ると「年齢による差別」という問題が出てきます。つまり、65歳、70歳まで働く時代において、55歳で賃金を下げる合理性が問われるということです。そうではなく、どの年齢においても上がることも有れば、下がることもあるという昇格昇給・降格降給制度を運用していて、そのシステムに基づき降格降給となったのが、たまたま55歳であったというのなら、能力評価に基づく降給も合理性があります。

社員のやる気を保ち、企業がフェアで有り続けるなら、方向性としては、年齢に関係のない、昇格昇給・降格降給の制度を構築することだろうと考えますが、人件費コントロール、後任の育成(ポストの確保)、運用の容易さから役職定年というのはなかなか「手放しにくい」制度であるというのが経営陣の意向であると思われます。また、日本の雇用システムにおいては、55歳で役職者でもなく、高度な専門職者でもない場合は、長期決済の年功型の給与カーブの性質上、55歳時点の賃金が経営陣からみて、一般的に本人の貢献度に比して”割高”になっている事情もあります。

貴社の場合、本当の意味での「役職定年制」が運用できているか、をまず問うて下さい。それが運用できているなら、そのまま継続されても良いでしょう。そうではなく、賃金カットの手段となっているなら、年齢に関係のない、実力主義の昇格昇給・降格降給制度を設けることを検討されることがいいのではないかと思われます。

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