中小企業の賞与原資の決め方

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賞与は利益分配という原点に返る

賞与原資をどう決めたら良いか?

そもそも賞与原資が変化しそうにない会社からはそのようなことはあまり気にされません。業績が安定していると、給与と賞与(引き当て)を予算として計上して、おおむねその通り着地するからです。予算より下振れした場合、賞与で若干の±調整を行い、上振れした場合は決算賞与で払うのです。

ところが、コロナ禍においてその業績安定が揺らいでいる会社が少なくありません。ですから、多くの会社が賞与は本来利益分配であるはずだ、どのような利益分配が適切か?というそもそも論をお考えになっているように思います。

賞与は「与えられるものか?」果たして「勝ち取るものか?」

考え方は2つあります。①付加価値(粗利益)をベースとして考える方法と、②経常利益(又は営業利益)をベースに考える方法です。  

付加価値(粗利益)をベースとして考える方法

付加価値ベースの考え方は労働分配率という考え方に行きつきます。一般的に労働分配率はオーナーの役員報酬も入れますが、賞与原資決定の際にはオーナーの役員報酬は除きます。ですから、「社員労働分配率」という言い方が適切です。労働分配率により総人件費を算出し、その総人件費から月例賃金を控除した額を賞与原資とします。つまり、以下のような数式で求めます。

賞与原資=付加価値(粗利益)×労働分配率(%)-(月例賃金×12+法定福利費)  

労働分配率は業種業態、個別企業によって実に差があるので、過去数年分の社員労働分配率を実際に計算して、適正額を決定すると良いです。中小企業において、労働分配率が33%以内であればとても優秀です。  

利益をベースとして考える方法

経常利益(営業利益)ベースの考え方は「賞与支給前経常利益」の一定割合を賞与原資とするというものです。たとえば、利益の3分の1を賞与原資とします。これは利益の3分の1は社員に、3分の1は株主に、残りの3分の1は内部留保にという考え方に基づきます。もちろん、法人税がありますので、キャッシュベースではこの通りになりませんが、一応よくある考え方と言えます。しかし、この考え方に基づくと大半の企業の賞与原資が過小になります。高収益企業にしかあてはまらないルールといえます。

もし、貴社が賞与原資の決定に関して一定のルールが欲しい場合、私のお勧めは①の労働分配率を基準とした考え方です。しかし、付加価値ベース又は利益ベースのいずれの考え方にしても、実際に賞与総額を決定する際には、以下の事項を考慮することなります。  

  • 過去の支給額、過去の支給額との増減の程度
  • 営業利益の伸び率、一人当たりの営業利益の伸び率
  • 利益が極端に変動した場合はその要因
  • 銀行返済のための必達利益(銀行返済額<=税引き後利益+減価償却費)の存在

  確かに賞与の決め方について、諸要素により調整が必要となりますが、賞与原資の決定方法をルール化しておけば、社長が原資決定で悩むことを軽減できます。また、社員へのなぜ増えた、減ったの説明もしやすくなるように思われます。

経営計画、実績、会計をオープンにする

仮に「労働分配率基準」だと言っても、今まで数字も公開しておらず、いきなり2020年12月から労働分配率に基づき賞与を払うと社員に宣言してもうまくいきません。賞与金額が減少するのならなおさらです。常日頃、経営をオープンにし、期初に「想定利益構成図」を共有しておくことです。儲かっているときも、儲かっていないときも常に経営を公開することが原則となります。労働分配率33%というのは人件費(給与・賞与・法定福利費・退職金積立額等)の3倍の粗利益を稼げ、ということになります。期初にいかに稼ぐかを社員全員でコミットし、その結果を分かち合う風土が大切です。社員には「労働分配率を33%以内にしよう」ではなく、このような経営方針のもと一致団結して「人件費の3倍の粗利益を稼ごう」です。

2020年冬季は極めて厳しい賞与となる

2020年冬季賞与 赤字決算が見込まれている場合には、ルール上は原資ゼロでも、ゼロはお勧めましません。赤字の場合でも平均0.5ヵ月分程度の支給が必要ではないかなと思います。こうなれば、良い人材には1.0ヵ月分、会社に非協力で何度言っても改善しない人材には不支給がありえます。厳しいですが、月給は下げない前提においては仕方がないほど厳しい冬(2020年12月)なのです。社員には「本当は支給できない業績だが、早期に業績復活を果たし、賞与額を戻します。協力してしてほしい」と具体的、前向きな方針とともに語るほかありません。

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