役員退職慰労金規程は作っておいたほうが良いのでしょうか?

役員退職慰労金規程を作ったほうが良いか?と聞かれれば「必ずしも制度として作る必要ありません」と答えています。会社法・税法上は必ずしも必要でなく、株主総会で退職金支給を決議し、取締役でその金額と計算根拠を議事録に入れて支給するということで良いからです。

(こんな失敗はしたくない A社の事例)

A社は社員30名、契約従業員・パートタイマー60名の製造業。超ワンマンの会長が一代で今の会社を築き上げました。数年前の会長の退職のときに司法書士さんに作ってもらい、取締役会で承認された役員退職慰労金規程によれば、創業当初から一緒にやってくれた番頭さんで専務取締役(67歳)の退職金を計算したところ以下のようになりました。

最終報酬月額(70万円)×在任年数(38年)×功績倍率(2.7)=7,182万円

社長は「とてもこんな額は払えない」と、その退職金を1,500万円まで下げることを提案しました。会長も「専務といいながら、あくまで従業員(使用人)だ」として減額に賛成しました。

退職後、その元・専務からA社に一通の内容証明郵便が届きました。「特段の業績悪化も認められず、減額は不当である。退職金の期待権を不当に侵害するものだ」としてその差の約5600万円を請求する内容でした。

───────────────────────────────────

役員退職金慰労金規程を作り、それが取締役会等で公開されていれば、当然、オーナー役員と非オーナー役員に同列に適用されることになりかねない事例です。しかし、役員退職慰労金規程というのは、オーナー役員にとっては事業承継上、財務戦略上、特別な意味を持ちます。

(1)法人税の節税

(2)株価対策・相続税の節税

(3)相続税支払いの資金作り 等です。

また、オーナー役員特に代表はほぼ100%金融機関からの借入金において、連帯保証をしています。つまり、とても合理的で、差し迫った大人の事情でオーナー役員と非オーナー役員では、その退職金の額に格段に格差を設けなくてはならないわけです。

しかし、会社法・税法・民法ではオーナー役員だからといって、あまり格差をつけるのはよくないと判断されます。

A社の事例のようにたとえ、非オーナーであっても役員退職慰労金規程が作成・公開されていれば、その減額には合理的な理由が必要となります。その減額が恣意的なものであれば、当然、退職金受給の期待権を侵害するものとなるのです。

したがって、以下のケースで正式な制度として公開されている場合は危ないです。

・保険会社から逓増定期保険加入の際にひな形を渡されたので一応使っている

・税理士さんがオーナー役員の退職のときに作成した規程がそのままになっている

・司法書士さんが役員の重任登記の際にサービスで「一応、作っときましょうか」と熟慮なく作成(ほぼ雛形通り)されたとき

このような規程が存在する場合は、一度、現行規程の廃止・変更を検討してみる必要があるということです。

目次